日経マネー9月号の藤巻さん

勝負の理由を明確に説明できてこそ自信が持てる」 (藤巻健史

非常に出来の良い特集と思います。編集長は藤巻さんから具体的な数値や日本経済に対する見方を上手に引き出しています。特集を読みつつ私にはこのような日本経済のシナリオが浮かびました。

  1. 日銀が資産価格の上昇に合わせ(資産価格が上がれば資産効果実体経済が良くなり個人消費増、消費が増え景気が良くなる見込みが強まれば投資増、担保価値が増えるため投資増、だからforward lookingで)、早め早めに金融引き締めすれば経済は巡航速度で成長する。8〜10年で日経平均4万円ぐらいのペース。平均10%/年〜13%/年のペース。
  2. 日銀の引き締めが後手に回るとバブルになり3〜5年で日経平均4万円となる。22%/年〜39%/年のペース
  3. バブルで資産インフレがCPIのインフレに転ずると日銀はインフレを止めるため金利を引き上げざるを得なくなる。そうすればバブルははじける。日銀の引き締めがきっかけにならなくても、信用が膨張しきり新規の資金の流入が終わった時点でバブルははじける。バブルがはじければ資産価格が急落し再び ... また繰り返し .... しかし次回は既に財政赤字が積み上がっている。
  4. マーケットがCPIインフレを予測すると長期金利が上昇し政府の財政赤字の利払いがきつくなる。政府と日銀が追い込まれて日銀が国債を買い入れ紙幣を発行する動きが加速するとハイパーインフレに。

短期的には日本経済は、お金ジャブジャブで資産インフレが起きる経済に強くプラスに作用するので、非常に強い。

ただし、「日本の最大の課題である財政赤字という大時限爆弾を抱えながらの好景気という認識」。

金利支払い能力が問題。米国の経常赤字も財政赤字も利払いは問題ない。日本の財政赤字の利払いは大変なので問題になる。

藤巻さんの日本経済観:「日本経済は既にかつての英国のように老年期に入っていることは間違いなく (需要がいっぱいあって供給が不足気味の若い経済ではなく、現生活での需要は足りるようになったため新たな投資先が見出せず、投資も消費も増えないため経済は成長しづらい。そういう経済で貯蓄しようとすると消費がへり効率が良くない投資が行われるため徐々に経済が減少・縮小してしまう、という状態にあるということでしょうか)、今後は産業政策を米国に変えざるを得ないと思うのです。米国の産業は額に汗してお金を稼いでいるのではなく、脳に汗を流しています」。

額に汗をながしてがんばればきっと報われるという信仰でものつくりに注力すれば日本は復活するという単純な話ではなく、比較優位とか生産性とか投資効率をもっと真剣に考えねばなりませんね。米国の潜在成長率は3〜3.5%、日本は1%台後半。差を2%/年とすると約30年で経済規模は倍の差になります。潜在成長率の差は為替レートからきていて是正されるレートは藤巻さんによれば200円/ドル

「現実に日本は過去の遺産で生きている」。「過去の遺産に頼らずに企業が収益を上げるには為替が円安にならねばならない」。「円が強すぎるから国内のモノ作りの競争力が無い」。「過去の遺産を食べつくして財政赤字&経常赤字になると円安ドル高が進む」。「双子の赤字になると経済学的には長期金利が上昇し円は大幅安になる」。そして大幅な円安になればモノ作りの競争力が復活する。

本来なら合理的期待や思惑で未来を織り込むことで経済は自然な水準になるはずだが、日本の場合為替が構造問題。お金が海外に流れない。

「円を国内に抱え込んでいるために日本はどんどん衰えてくのです」。

貯蓄に励みすぎるとその貯蓄が不可能になる水準まで生産が縮小するというパラドックスがありますが、これはその為替版ですね。稼いだ黒字で対外資産を獲得(円を海外に放出する)しないと黒字が稼げない水準まで為替が推移し経常収支減少相当分国内の生産が減少し、国内資産のキャッシュフローが細ることで生じる逆資産効果のルートで消費と投資も減少し生産が減少する ... 。

国内の財やサービスの生産(GDP) = 消費 + 投資 + 政府支出 + 輸出 - 輸入
経常収支 = 輸出 - 輸入
= 生産 - 消費 - 投資 - 政府支出
= (家計部門税引後収入 - 消費 - 住宅投資) + (企業部門税引後CF - 投資CF) + (税収 - 政府支出)

円安に振れていくきっかけは、

  • ムード
  • 経常黒字の急速な減少

経常収支は家計、企業、政府の各部門の黒字の和といえます。企業部門は10年以上にわたりバランスシートを縮小しつつ負債を減らすことで貯蓄超過(プラスのCF)でしたが、いつまでも貯蓄超過はありえないので、経常収支 ≒ 財政収支 = 赤字 へ向かう。

自分で考え自分のロジックを組むための、藤巻健史のお金持ちになる人の六つの習慣

  1. 経済の基本原則がわかる本を読む
  2. 信頼できる人の発言を継続フォローする
  3. 余裕資金で外貨投資をする
  4. 英語力を鍛え日本を外から見る
  5. 自信が持てないときは勝負を休む
  6. 金融先物取引を参考に金利の予想を立てる

経済の基本原則の本をかじると、藤巻さんの長期の見通しは基本原則をロジカルに展開していることがわかります。今回の日経マネーで藤巻さんのロジックへの理解が一歩進んだような気がします。

「予想を当てるのは簡単だけど、その予想に基づいて勝負をかけるのとは全然違う話です。(中略) 自分の考えに自信があるからこそ耐えられるのです」