「円安 vs. 円高」 AGAIN
著者の一人の宿輪さんのコメントがきっかけとなり、3年ぶりに読み返しました。おもしろい!。
おかげで私なりの理解がグッと深まりました。
藤巻さんも宿輪さんもそっくりなことをおっしゃっている
にもかかわらず、円安 vs. 円高 と見解が180°違う。見解の違いはどこから来るか?
藤巻さんの主張
景気が強ければ株価が上がり金利が上がり自国通貨が強くなる。景気が悪ければその逆
ではじまり、対談の終わりでは
私はトレーダーとしてはある程度成功できたと思っています。それは経済の基本原理に対する知識があったからと思うのです。経済学の知識があれば必ずディーラーとして成功するというわけではありませんが、ディーラーで成功するためには絶対経済学の勉強が必要だということは事実です。経済学は基礎学問として経済界で生きるには必要不可欠な学問だと思います。
とおっしゃる。
素人の私はこれを真に受けて経済学の教科書を読み始めました。今回読み返してみると、藤巻さんの主張は、ブランシャールのマクロ経済学(ASIN:4492312609,ASIN:4492312617)のあの章!、クルーグマン&オブスフェルドの国際経済学(ASIN:4873150094)のこの章!ということが良くわかります。
藤巻さんのプロパガンダでの主張(3ヶ月、半年、1年という期限に制約されない個人向けポジション)は、マクロ経済学にシンプルにのっていて、しかも長期的には複数の経路からの作用が追い風になるようなポジションになっていると、いえそうです。
藤巻理論の特徴は次の二つの効果を大きく評価している点で、ここが素人にはわかりづらかった。
(1) 資産効果
(2) 為替の経路の効果
- (1a) 資産効果 -- 家計部門 : 将来の期待消費可能額が今の消費を左右する。私はここ2〜3年の人々の行動を観察し資産効果を確信しました。
- (1b) 資産効果 -- 企業部門 : 日本では信用の根っこの部分に土地があり、地価が下がるとのりしろが薄くなった企業は負債を減らそうとするし銀行は貸さないとか返済を迫るとかで、マネーサプライが減ってしまう。
- (2a) 為替 -- 実体経済の経路 : メディアでは為替の作用は輸出だけのように言われていますが、非輸出産業部門でも国内に産業が戻る。産業がもどれば雇用の経路で消費が増えるし、土地の需要が増せば資産効果に作用する。
- (2b) 為替 -- グローバル投資の経路 : ヘッジファンド等は為替が安くなれば経済が回復することを知っているので思惑でリスク資産に買いが入り、値上がりする。
マクロ経済でわかりにくいポイントの一つが「投資機会以上に貯蓄しようとするとどうなるか?」です。マンキューかブランシャールの教科書の脚注に小さな字で「そういう貯蓄ができない水準まで経済が縮小する」とあったと記憶しています。
「経常黒字を稼いでおカネを国内に溜め込もうとするとどうなるか?」もこれと類似に思えます。真面目に確認していませんが「為替レートの経路で経常黒字が出ない水準まで経済が縮小する」のかも知れません。
国内に投資機会が無いならば海外に投資が流れるべきで、そうなれば自然に円安になり、実体経済に無理をかけることなく自然に景気は回復する、ということでしょう。おカネを国内にとどめ無理矢理投資したのがあのバブルになったとも言える、と私は理解しました。
藤巻さんは、
- 世の中で起きている様々な現象がマクロ経済学のどの式(理論)に関係していて
- その変化は実体経済に対し、短期/中期/長期のどのレンジで作用し、
- その変化は実態経済に対し、ネガティブフィードバック(物事を安定化する方向) or ポジティブフィードバック(両極端に加速する方向)で作用するか
が見えるのでしょう。私も日ごろからこれを意識しようと思います。自然に思い浮かぶようになりたいものです。
宿輪さんの主張
宿輪さんは藤巻さんとは対照的にミクロ的なアプローチのようです。
おカネが日本国内に流入するのが良い。それは日本経済のパイ全体の増大を意味する。弱った経済の機能を強化し、円高に打ち勝つ高付加価値商品を売りおカネを国内に流入させるべき。
入ってきたお金はリスク資産に向かう可能性が高く → 資産価格上昇 → 資産効果 → 景気にプラス。おカネが国内に入るときに円を買うので円高になる。
この経路で景気が良くなれば私はとてもハッピーです。給料は増え、投資も順調で、安く海外旅行にいける!。
いわば、ルービン財務長官時代の米国ですね。80年代半ばのシリコンバレーは空き地もいっぱいありOfficeビルも平屋かせいぜい2階建てが多かった。不動産(普通の家)も私の給料で無理しなくても買えそうな程度でした。それが...、90年代終わりには空き地には4階建て5階建てのビルやマンションが建ち、高速道路が増えたにもかかわらず道路は混雑し、高級車がごろごろし、ごく普通の家も私の給料では購入不可能な価格になっていました。日本もこのくらい景気良かったらどんなにいいことでしょう。
経常黒字で稼いだおカネが国内に沢山貯まっているはずなのにそのおカネは国内の投資向かわない。宿輪さんは国内のおカネと海外のおカネは性格が違う、海外のおカネは「動く」ので新しい事業に投入される、とおっしゃる。
私は、国内におカネがジャブジャブ(低金利)なのは国内に投資機会が無い・少ないことを示唆していて、国内に投資機会が無いのは
- 消費が弱く投資リターンが期待できない。 ... 消費が弱い理由は、何かとカネがかさむ30〜40歳台人口が少なく老後に備え貯蓄にはげむ50歳台人口が多かったとか、社会が成熟し誰もがどうしても欲しくなるような新商品が少なかったとか、デフレで消費を先延ばししたとか。
- 国内への投資が割高に見える。 ... 製造業は低コストの海外に出て行っちゃうし、生産性が低いといわれるサービス業やホワイトカラーの仕事はグローバルに見ると割高といえましょう。
つまり、期待リターンが少ないわりには割高と言えるからではないか、と思います。
金利を上げて自国通貨高で経済を繁栄させるというルービン戦略を使うためには国内の消費と投資意欲が強いつまり経済が強いのが条件じゃないかなあ、と感じます。
グローバルにみて日本への投資が割安になるためには、
- 十分に円安になった後
- 日本の賃金やリスク資産が名目(円ベース)で安くなる
のいずれかでしょうが、日本は円高が続くゆえ実体経済は後者の経路を通じで均衡に向かおうともがいている、ように感じます。
後者の経路が続くと、実体経済に無理がかかり
- 金融危機に到るとハードランディング
- そうならなくても、ずーっと不景気を通じでジワジワと貧乏になる(経済が縮小する)
- 円高で輸出がダメになることで経常黒字が赤字に転じ財政赤字を国内でファンディングできず、円安基調で外貨建て借入に追い込まれ、経済危機に到る(アルゼンチンと同じケース、ワーストケース)
と藤巻さんはリスクシナリオを述べています。
リスクシナリオに到る前に、オデキを針でつついて膿を出す(グローバルにみて日本の人件費やリスク資産価格が自然な(?)水準になる程度の円安にする)ことで、経済(消費と投資)は回復し、元気になった経済は宿輪さんがおっしゃるように国内におカネを誘導する(ルービンふう)政策で好景気を長く維持できるのでしょう。
あと、財政赤字との関連では、経常黒字が赤字に転ずる前に適切な円安水準になれば巨額な財政赤字の問題をなんとかできるのかもしれません。この時間関係に気をつけたいと思います。
- 作者: 藤巻健史,宿輪純一
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2003/11/14
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Amazon.co.jpでの評判は「かみ合っていない」といまひとつのようですが、両氏の主張を比べることで藤巻理論を理解した気分になれる(?)良い本と思います。