雑誌Voice 2月号 「値上げ」繁栄論 −資産インフレが導く物価高は経済を好回転させる by 藤巻健史
藤巻さんに逆風が吹いていますが、行間を読みつつ藤巻さんのロジックを勝手に考察します。
今回の注目ポイントは,少しトーンが変わったように感じられること。
- 政治に対する期待が低下し、日銀の金融政策が頼り?
- バブル警報解除?
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2008/01/10
- メディア: 雑誌
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(1/21 追記 こちらに全文あり)
「資産インフレ」の効果について
世界経済が繁栄を迎えた理由の一つに、日本以外の国では資産価格の上昇すなわち「資産インフレ」による資産効果(消費拡大)が生じたことが挙げられる。 (中略)
世界経済の5%成長を見るにつけ、日本の1.5%成長(2001年から06年まで)という低位安定は歯がゆいものがある。 (中略) 日本だけが利益をエンジョイすることができなかったのだ。
その原因の一つは、円高だったことにある。 為替が十分円安になっていれば、日本も世界経済の好調の波に乗れていただろう。 (中略) 日本では円がフレキシブルに動かなかったため、景気が停滞してしまったのだ。
おカネと仕事が国境を越えて動く時代では、円が十分に安ければ
- グローバル投資家からは日本の土地が割安に見え、グローバル投資家が土地を買うことで地価が上がる → 不動産担保でおカネを借り易くなる → マネーサプライが増える、とか、地価上昇 → バランスシートの改善 → 強気になって投資(企業)や消費(家計)が増え需要増(資産効果)
- 日本の労働コストが割安になる → 日本でのモノやサービスの生産が割安になる → 需要増 → 労働需要増 → 失業率や賃金の改善で家計部門が強気になる
- 輸出が増える → (輸出)企業の利益増 → 株価上昇 → 資産効果で消費増
という波及経路が考えられるのでしょう。
藤巻さんの為替水準に対する考えはシンプル
- 現状では景気が良くないから「円安がいい」
- 経済が強くなれば、景気の過熱やインフレを抑える意味で円高のほうがよくなる
さらに、「国民が円安のメリットを議論せず、円安誘導に向けた政策をとらなかったゆえに、日本は世界の発展から取り残され」たとの見解。 円を安くする手段はいくつもありその一つは、ドル建て日本国債の発行。
日本経済にとってのベストシナリオ : 資産インフレが最初に訪れ、その次に消費者物価指数(CPI)が上がるケース
モノやサービスの価格が上昇する二つの要因
- 需要が供給よりも多い (今の日本ではそんな好景気になることは考えにくい)
- 貨幣価値の下落
貨幣価値下落時に何がおきるか?
この経緯をたどる場合には、人々はおカネを速く手放すようになる(貨幣の流通速度Vが上がる)。 こういう時期には人々はインフレを予測し借り入れを増やすのでマネーサプライMが増える。すると
MV = PY
の左辺が増えるので右辺(物価水準PとGDP P)も増える。デフレから脱却してGDPが増える普通の経済では投資も消費も回復し、通常の経済成長に戻る。
藤巻さんのロジックでは、資産効果が投資や消費に関する心理を変えケインズのいうアニマル・スピリットを刺激する役割を担う。
資産インフレが「過ぎる」のは良くない。 バブルになってはじけてしまう。 資産インフレの程度をうまくコントロールするのは日銀の仕事。--- 最近の経済のモタツキのせいか、ひところに比べ資産バブルへの警戒トーンが減少したように見えます。 警報から注意報へダウンか。
財政赤字の点で、資産インフレ誘導政策は不可避。 だから、逆に資産インフレに進まないケース(行き着く先はハイパーインフレ)も警戒する必要がありそう。
財政赤字の規模から、金利が上昇した場合の利払いがとてもヤバイ。 累積赤字を増やしてはいけないが、増税と歳出減は景気に悪い。 金融政策(利下げ余地無し)と財政政策が使えないから、残る政策は2つ。
政治や官僚の経済に対するスタンスに関して、ポール・サミュエルソンの見解とよく似ているように聞こえる...。 政治や行政の領域では「市場による自然なリソース配分」よりも「誰かの判断による配分」の方が相変わらず重きを置かれている(要するに日本型社会主義)、あるいは、内閣が変わることでそちらへ重心が移ったということか。
藤巻さんの期待は、
ということか、と勝手に理解。
関連する追記
http://d.hatena.ne.jp/guerrillaichigo/20080120
http://d.hatena.ne.jp/guerrillaichigo/20080121