日経2月4日朝刊 経済教室 「経済一流でない」の真実 by 岩本康志 東大教授 より メモ

以下、要約です。 脚注は私のたわごと。


一人当たりのGDP購買力平価で比較すると、日本の一人当たりGDPOECD加盟国平均を少し上回る水準で推移しており、一番上位にきた91年でも日本の上に数カ国あり、「もはや」でなく「かつて」一流であったことはないのが実情。*1
生活水準の指標としてより適切な一人当たり現実個人消費購買力平価水準でみても、日本は過去OECD平均を超えたことがない。*2
これは日本が投資に多くを割いているからだ。 もしそれが高い成長に結びついていないならば、日本の投資は過大で非効率だったとになる。 公共投資だけでなく、民間企業投資も資本の収益率が低く過大投資・過小消費だった(安藤 ペンシルバニア大元教授)。 最近の景気回復局面で資本収益率が高まったが付加価値が企業部門に厚めに家計部門に薄めに配分されたため民間消費の伸びが見られない(斉藤 一橋大教授)。*3
為替レートで見た一人当たりGDPが急速に減少したことは、別の視点では内外価格差が縮小したとも言える。
一物一価が国際的に成り立てば為替レートは購買力平価で決まるハズだが、乖離が生じ、内外価格差が拡大・縮小するのはなぜか? 理由の一つが非貿易財の存在。 貿易による裁定が働かない。 一般に所得水準の高い国ほど非貿易財の価格が高くなる。 
バラッサ・サミュエルソンの仮説 : 貿易財の生産性の違いが各国の所得水準の差を生み、経済が成長すると、その国の非貿易財が貿易財よりも割高になる。*4
この仮説に基づくと、日本の内外価格差は
(1) 日本の貿易財の生産性が非常に高いため (内外価格差は合理的な経済現象、「良い内外価格差」)
(2) 日本に非貿易財の生産性が非常に低いため (「悪い内外価格差」)
プラザ合意後の円高では「悪い内外価格差」と認識され規制緩和路線をとったハズたが、その20年後、内外価格差はほぼ解消した。 しかし、実質所得は伸びていない。
規制緩和は生産性を上げないのか? 実証研究では生産性を高めることが確認されている。
と、すると...
(1) 日本の非貿易財産業の生産性が上昇したものの、外国の生産性も上昇して、日本の相対的地位が低下した*5
(2) 日本の規制緩和が不徹底
(3) 国際的に見て(日本の)貿易財産業の生産性が相対的に低下した*6
残念なことに国際的なデータが整備されておらず、わからない。
どう日本の戦略を描くべきか? 頼るべきは風説に耐えてきた国際経済学の基本理論だろう。
日本の生産性向上が必要なことは当然だが、手がかりが無い中で、政府に何ができるのか見つけにくい。
以前から明白で手がついていないのは食料品の価格差。 生産性の低い農業部門が補助金と高関税で守られている。
生産性の比較は購買力平価で行うべきなのに、政策当局が為替レートにとらわれていては心もとない。
生産性向上に名を借りてただやみくもに投資すればいいわけでもない。 日本が真の豊かさを実感するためには、投資効率を高め、消費を拡大する道も同時に追求するべきだ。


要約終わり。


民間企業の投資も効率が悪い --- なぜだろうか?。
日本では会社は株主のものじゃなくて、経営者や従業員のものだったりする。 だから、会社がつぶれない限り、投資効率はfocusされなくなりがち。 会社の内側にいる人には優しいが、それが日本経済をじわじわを貧乏にしていく。 皮肉だなあ。 購買力平価でみた一人当たりGDPは91年ごろをピークにじわじわと低下している。 利益率が低い会社は株価も低迷するから買収され経営が変わることでまっとうな利益率に変身するという経路もあるが、これは「ハゲタカだ」という反対意見も強いみたい。 優しいようで、既得権の無い人には(経済が成長しないので収入が増えにくいという点で)全然優しくない。
けっきょく、日本人は、(自分の代は大丈夫と若い世代に問題を押し付けつつ)じわじわと貧乏になる道を選びたいのか、ただ単に知識が無い(マクロ経済はミクロの直観に反するところがあるので勉強しないと分かりづらい)だけか? 後者だよね、きっと。 後者なら勉強すればいいだけだから。
貧乏になる道も選択肢としては有るが、行く手には巨額な財政赤字財政破綻がドンと控えているから、とても厳しい道のように思うが...。

*1:「もはや」一流ではないでマスコミは盛り上がりそう。例えば、ここ

*2:どりで、円高の時にアメリカにいってもアメリカは豊かだと感じたわけだ。

*3:日本企業を日本人が株式を通じて保有していれば資本収益率向上をエンジョイできたのに。

*4:私の理解 : 貿易財は一物一価、生産性が高ければ沢山生産でき所得も沢山、高所得の国でも非貿易財の需要がありその生産のためには人が必要だが生産性に見合った賃金ではだれもやらないので、貿易財生産とそれほど差が無い賃金を支払わねばならず高コストとなり、その結果非貿易財が割高になる。

*5:アメリカのサービス業はITで生産性を大きく向上したのでは?。80年代後半、アメリカの空港でレンタカーを借りたり返したりするのは結構時間がかかった。カウンターのお姉さんが料金システムを理解できていないとか、計算を間違えるとか。90年代後半には、カウンターではほとんど何もしなくてもいいくらいIT化された。当然、カウンターのお姉さんの人数も激減した。

*6:高生産性の製造業の製造現場が国外に行っちゃったから?