日本破綻 「その日」に備える資産防衛術

買いました、読みました。
私の注目ポイントは(例によって)藤巻さんの予測が当たった・はずれたではなく、藤巻さんが何に注目し・如何なるメカニズムが作用すると考えているか、です。


日本破綻 「その日」に備える資産防衛術

日本破綻 「その日」に備える資産防衛術


国内の消費や投資が振るわず(つまり国内が需要不足で)経常黒字を生み出すとき、黒字を海外に還流(海外資産を取得する形で貯蓄)させれば円高にならず、還流が不足すれば経常黒字が消える水準まで円高が進み不況に苦しむ。 黒字が海外に還流しない理由に関して、藤巻さんは

低迷経済と巨額累積赤字の根は一つなのです。 つまり、巨大な公的金融機関の存在です。 市場原理の働かない巨大な公的組織が海外に十分な投資を行わないから対ドル円相場が高位安定し、それがゆえに経済低迷が続いた。 そして、海外投資の代りに超低金利国債投資を続けたからこそ、政治家の「ばら撒き欲望」をいさめられず、巨額赤字が累積してしまったのだ

とリターンを取りに行くよりも、損を出して自分の出世に傷がつくことを嫌う郵貯簡保の存在が、過剰貯蓄を国債に還流させ巨額な累積赤字につながったと指摘。
さらに

今の日本は自らの問題点を全く把握しておらず、あるべき方向とは正反対の方向に向かって突き進んでいます。 だからこそ私は「自分の財産は自分で守る」と決心せざるを得ないのです。

選挙の結果、政治的に破綻を回避できる見込みが皆無となった結果、藤巻さんは悲観シナリオに転じたことがよくわかる。


藤巻さんが「楽観」から「悲観」に転じたポイントに累積赤字の水準(改善の目処の消失)にあることは予想していましたが、そのクリティカルポイントとメカニズムが分かりませんでした。 ここが私には謎でしたが、この本ではちゃんと解説されています。 藤巻さんに感謝。

円安によってインフレになると累積赤字は実質的に減ります。 しかし残念ながら通常、支払金利も増えてしまうのです。 5%のインフレなら実質借入額も5%減ります。 しかし金利支払いは同時に5%+α増えていってしまうのです。 名目金利 = 実質金利 + 期待インフレ率 + クレジットリスク という式があります。 この式からお分かりのように、期待インフレ率が5%だと名目金利は5%以上になってしまいます。
ただ前述したように、支払い金利の増加には時間のギャップがあります。(中略)
(インフレの結果)実質的な借入金の総額はただちに減少していきますから、ここに支払い金利増との時間的なギャップが生じます。

発行済み国債の平均期間が6年とすれば、インフレによる利払い増が深刻になるのは6年後からなので、それまでに例えば10%のインフレを続け累積赤字を実質的に十分に軽くし、インフレ6年目に日銀が短期金利をぐっと引き上げインフレにブレーキをかけ軟着陸するというのが「楽観」シナリオだったが、現在の政治状況では累積赤字はますます拡大し、数年間のインフレでは累積債務は利払い増をしのげるほど十分に小さくならない、したがって軟着陸はもはや不可能。 こういうことと理解しました。
円安になれば、実体経済は改善し、リスク資産価格上昇の効果でも景気は良くなり、銀行は国債で損をするものの長短金利差増と貸し出し像で利益がでるので金融危機は起きない。 貨幣の流通速度が増すことマネーサプライが増加しゆっくりとインフレが進んでいく。
一方、円高が続くと、市場の疑心暗鬼と恐怖が臨界点に達した時点で長期金利が高騰し、政府の財政破綻と同時に金融危機が生じ、日銀が金融システム(決済インフラ)を守るため・政府支出を賄うためマネーを大量に刷ることで、マネタリーベースと流通速度の両方が増大することでマネーサプライが急増し激しいインフレが進行する。
さて、一個人としては

  • 政府の財政破綻金融危機の大混乱期をどう乗り切るか
  • 経済の実力に見合った社会保障や行政サービスにどう対応するか
  • 円安による経済の回復期にどうするか

といったところが思案のしどころでしょうか。