ウォール街の常識・兜町の非常識 by 大竹眞一


経済学の教科書かじり始める前の右往左往していたころBookOffで見つけて読んだ本で、

  • 藤巻さんも金利のプロ、プロは金利を中心に据えているらしい、
  • マネーがどこをどう流れるかが重要らしい、実体経済の隣にリスク資産市場がありマネーの行き来が重要らしい

ということに気づき始めるきっかけになった本です。


株式市場を動かす最大の決定要因は金利
金利が大幅に低下するとき --- 経済が必要とする以上にマネーが供給され、流動性が高まり(金余り現象) → 物品の投機・証券の購入
正確には、マネーサプライとマネーデマンドは一致しているから金が余っているのではなく貨幣の流通速度(=マーシャルのKの逆数)が遅くなり、つまり証券市場(リスク資産市場)に流入し滞留する。

実経済の日々の取引に必要なお金の量はほぼ一定。
マネーサプライを増やすと、あふれたマネーはリスク資産市場へ流れ、リスク資産を買い持ちする。 ここでリスク資産がホールドされることで、資産価格が上昇する
この課程全体を見ると、流通速度が低下して見える。

株式と債券のアービトラージ
株式の予想収益率 = 債券の予想収益率(つまり金利) + リスクプレミアム
金利により妥当なPERは変化する
したがって金利予想が最も重要

'87〜 マネタリーベースで10%増、M1, M2ともの10%増 → バブル
'89 利上げ開始
'90 マネタリーベースの成長を抑える。 M1増は減速したがM2+CD(最終需要に近いマネーサプライ)は増加10%超のまま
'91 マネタリーベースをマイナス成長にする。 バブル崩壊
'91〜'93 マネタリーベースを-5%成長 → デフレ大不況の長期化
'94 マネタリーベース4%増
'96 マネタリーベース8%増 → '97, '98の円安へつながった

マネタリーベースの増加からM2+CDの増加までには2〜3年かかる。 (だから中央銀行はforward lookingで金融政策をやらねばならない)

自由主義体制を前提にした経済成長のためには、モノ・ヒト・カネの移動の自由が要る。

90年代に日本のマネーサプライが停滞している理由

  • 郵貯が吸い上げた金を日銀からの大量の国債購入にあてた (売りオペに相当)
  • 銀行から郵貯へ預金が流れると
  • (1) 郵貯から民間(銀行)に金が戻ってこない
  • (2) 流出した預金のぶん銀行は貸し出しを減らす(マネーサプライ減)あるいは証券を売る(マネーを吸い上げる)
  • 日銀は売りオペに対応する分買いオペをやる必要があったが積極的な対応をしなかった

郵貯は市場から国債を買えばよかった。郵政省の担当者(そして私にも)には日銀から買おうと市場から買おうと一見同じですが、マクロ経済への影響は随分違う。中央銀行が取引に絡むと経済への影響が変わるという意味で非常に興味深いですね。
いま思えば、バブル崩壊後の長期不況は金融政策を使うべきところを財政政策を噴かしたのが失敗だったのかも知れません。開放経済では財政政策はあまり効かないが金融政策は金利と為替の両方の経路で作用すると最近の教科書にはあります。ひょっとしたら昔の教科書には書いてなかったのかも。だから、ウォール街の常識・兜町の非常識?