新保生二 日本経済失敗の本質

藤巻さんはエコノミストが書いた本を読まないとも言われますが、かつて藤巻さんが名前を挙げた数少ないエコノミストの本です。
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藤巻さんが語らない部分をこの本が語っているのではないか。下記はこれを読んだときノートに残したメモです。当時はバブル崩壊後の大不況のメカニズムがわからずいろいろな本を読み漁っていました。昔のメモゆえ著者の主張と私の思いつきの書き込みの区別がつきません。私もメモなんぞを真に受けてはいけません。原典をチェックしてください。



世界の経済学: 80年代の新古典派隆盛の時代 → ニューケインジアンの時代(財政政策よりも金融政策)
日本だけはオールドケインジアン、経済的自由主義に対するアレルギー
日本の経済政策に対する考え方
(1) 資産価格下落後のバランスシート調整のデフレ効果は小さい
(2) 財政政策の景気刺激効果は大きい
(3) 金融政策の景気刺激効果は小さい

長期の成長はサプライサイド(投入量と生産性)で決まる・

  • 投入量 投資、労働力や資本ストック
  • 生産性 付加価値、効率

90年代 : 生産性上昇率の低迷 --- 小さくなった付加価値/多くの労働力
製造業 付加価値の成長が伸び悩む、生産性低下、雇用の減少(←円高による海外移転)
製造業とサービス業 --- 雇用増加率の低下 => GDP増加率の低下
他の産業 --- 生産性上昇率の低下 => GDP増加率の低下
国内で比較優位を失った製品の工場が海外へ
デフレ期待とDebtデフレーションで国内での設備投資が低迷、国内での生産の減少、賃金コストの高止まり(円高)、過剰雇用

潜在成長率
高度成長期 8.6%, 75〜86 3.5%, 87〜91 4.1%, 92〜96 2.2%, 97〜00 1.1%
技術進歩の低下、労働時間の減少、資本ストック・設備
オーカンの法則による潜在成長率の推定 90年代前半 3.4%, 後半 1.2%

人的資本
例 USビジネススクール
流動性の高い労働市場 → 高付加価値分野にリソースを動かしやすい

長期の実質成長率 --- 投入労働量、資本ストック、技術進歩率 (ソロー型生産関数)
金融政策は資本ストックの増加率に影響するのではないか 3〜5年のレンジ

経済全体の
1/3 製造業 市場経済 --- ここが強いうちは残りの2/3を支えることができたが円高(高賃金コスト)等で伸びなくなった
2/3 非製造業 社会主義

経済政策に対する国内と国外の考え方の乖離
マクロ経済学の変化 : ケインズ主義 → 新古典派革命(80年代のマネタリズム、合理的期待仮説、サプライサイドエコノミクス) → ニューケインジアン
経済的自由主義 vs. 大きな政府
開業率、体内直接投資の対GDP比率
インフレ率はマネーサプライで決まる、ソロー型生産関数

インフレ率はGDPギャップと密接に連動
政策運営の視座のブレ --- マスコミの影響、経済学者の参加の少なさ、政策のマイナスサイドが真剣に議論されない、雰囲気で一方向に大きく振れる ... (経済学が国民の教養になっていない)

バブル後遺症: 不動産市場(下落予想)、株式市場(下落予想)、金融仲介機能

バランスシート調整のデフレ効果
不良債権 → 金融システム不安 → 貸し渋り → 消費や設備投資が減る
不良債権 → 金融システム不安 → 貸し渋り(コール市場の信用が無くなった) → 心理ショック → 消費や設備投資が減る
資産価格暴落 → 中小企業の純資産(Equity)の落ち込み → 信用力の低下 → 土地の担保機能の低下 → 企業は自分のことは知っているが金融機関はわからないという情報の非対称性を土地担保で解消できない → 貸し出しの制約、逆選択モラルハザードで貸しにくい

中央銀行名目金利をゼロ近くにした後の金融政策
経済の流動性を増すためには (F. ミシキン)
国債や外債を買いオペしてマネタリーベースとマネーサプライを増やす
期待物価水準、資産価格(資産効果と信用の経路)を高めることで景気刺激効果

ブランチャード FFレートの1%の低下は1年後に生産を0.8%増やす
フェルドスタイン インフレ過程におけるマネーの焼くわいりゃ短期の景気安定政策に果たす重要性
マンキュー 財政政策の乗数は大きくない

経済的自由主義 --- 市場に任せたほうがリソースをうまく配分できる(効率、生産性) (_サプライサイド)
資本移動の急速な拡大 → 途上国の急速な経済発展
グローバル化 → 技術、金融(資金を集める手段ができた)、情報の民主化
T. フリードマン*1 日本では金融の民主化が起きていないので必要な人に資金が行かない。自分の金の運用を自由にできない(年金等)ので日本企業のパフォーマンスを高めさせる圧力も弱い。全ての社会の大多数はグローバル化以前のゆっくりした時代に郷愁を持っている。伝統を重んじる傾向の強い国ほど構造改革の実行は困難。例 日本、ドイツ

名目成長率 --- マネーサプライ増加率
マネーサプライ増加率の低下の理由は?

  • 地価下落 逆資産効果の影響はほとんど無視された (政策目標)
  • 情報の非対称性 地価下落 → 金融の不安定性 → GDPにマイナスのインパク
  • 貸出態度が慎重化
  • 金融緩和の遅れ タイミングが遅く、小出し ← 地価下落が政策目標だった、実質金利に注目していなかった

行過ぎた物価安定重視

  • 80年代よりコールレートはテイラールールよりも高めだった
  • 物価安定優先政策
  • バブル期もコールレートはテイラールールよりも高めだった

80年代後半のバブルは金融緩和の行き過ぎではなく不動産、中小企業、個人等への過剰融資が行われ、土地投機に向かった
80年代の金融自由化 : 大企業は直接融資へ移行したので銀行はヤバそなところにも貸した、リターンを取るためにハイリスクな貸し出し
一方、家計の資産運用の自由化は遅れた → 銀行に資金が集まってしまう
円高不況対策で国内にお金を回しすぎた。*2

貨幣の流通速度 ; マネーサプライ増加率が大幅に高まる局面 --- 一時的に通貨が過剰 → 速度はトレンドを一時的に下回る(インフレ率が高まる時期)

流通速度 --- 社会の仕組み、インフラから来るもので、ゆっくり変化する
マネーサプライ --- ベースマネー(日銀) + 銀行の信用創造 --- 急に変化しうる
今はベースマネーは沢山あるから信用創造が増えるかどうか ← 資産価格が重要

流通速度のトレンドとのギャップ と インフレ率 との関係は大 ← マネーサプライ(信用創造)が増えていることを意味する

トレンドを上回る → インフレ率低下 → 期待インフレ率低下 → ついにマイナスに達する → 実質金利上昇 → デフレ的に作用

弱い自立回復力
バブル崩壊後の3回の景気後退 '91〜'95、'97〜'99、'01〜'03
何故自律回復力が弱いか?

  • 回復テンポが鈍い、消費の回復が鈍い ← 賃金が伸びていない、雇用の伸びが緩慢
  • 過剰雇用感が強い → 賃金・雇用の伸び悩み
  • 物価下落 ← 金融引き締めの行き過ぎ --- 金融緩和局面が長く維持されすぎ、過剰流動性でバブルになったと考えられ、反動で慎重すぎる金融緩和となった

バブルの原因の過剰流動性

  • 金融政策の失敗 (引き締めが遅れた)
  • 中途半端な金融自由化

マネーの流れ
(その1) マーケット → 大企業 (社債や株式の発行)
(その2) 個人 → 銀行 → 会社等 → 土地(or 株) → 売った個人 → 銀行 → ...

緩すぎる金融こそがバブルの原因と思われたため、緩和が遅れ、
'80年代末にゼロインフレだったので、デフレ領域まで引き込んでしまった
→ 過剰債務がますます重くなる (フィッシャーのDebtデフレの作用)

雇用調整の遅れ
雇用を抱えたため利益が出ない → 設備投資が弱い、資産価格
雇用不安 → 弱い消費者信頼感 → 個人消費の低迷

不良債権 --- 企業の過剰債務、金融機関が十分な収益を上げる体質になっていない
構造改革 --- 対内直接投資、新規開業 ともに少ない 投資が生じていない、効率か向上しない
財政赤字 --- 景気が悪化し税収の伸びが減った、拡張的な財政政策

長期金利の低さへの寄与因子

  • 短期金利が低い
  • 実質成長率の低迷
  • 期待インフレ率の低下

上記3つが構造的財政赤字長期金利上昇圧力に打ち勝っている
景気が回復すれば3つの因子の圧力は減り長期金利は上昇していく
投資家マインド(マーケット)が非連続的に変化するかも知れないことに注意

90年代の失敗を招いた3つの考え方

  • 本格的な不良債権処理を含む構造改革の先送り --- デフレ期待がある限り不良債権は大きくなっていく
  • 財政政策を中心とする総需要拡大策
  • 慎重な金融緩和

必要な政策ミックス
ゼロインフレ率以上のインフレ率を目指した金融緩和 + 構造改革 (本格的な不良債権処理(→働いていない資産が利用され始める)、より効率的な税金の使い方)

99年のゼロ金利導入(金融緩和) → 資産価格の上昇(土地・株)、円安 に作用する

規格大量生産の時代から多様な智恵の時代へ

金融の民主化 : 幅広い投資家が国や企業のパフォーマンスを監視する

ITが成長を高めるメカニズム

  • IT関連の資本ストックの積み上げ → 労働者一人当たりの資本装備率の上昇 → 労働生産性の向上
  • IT生産部門の技術進歩とウェイトの拡大
  • IT利用部門の外部経済効果*3、効率性の向上

技術革新の動向は投資環境(投資家保護)と関係あり*4 --- リスクマネーの供給
柔軟な雇用 --- 人的資本投資や労働市場の流動化 既得権があるところで最適なリソース配分は難しいだろう

Δ財政収支とΔ名目成長率とには相関がある、更に日本の場合、積極的な歳出 & 減税
国債残高 GDP比で over 100%、年金債務その他 150%
ドーンブッシュ MIT教授 日本国債以外で大損したことがあるので日本国債を持っているに過ぎない

グローバル化と日本的システム
政府万能主義が経済的自由主義に打ち負かされた
競争・自助努力・利潤こそが繁栄の基盤
日本では

  • 社会主義思想
  • 年功序列・長期雇用・系列・長期継続取引 日本的システムが優れているという思い込み
  • もうこれ以上成長する必要は無い

サミュエルソン 日本システムの問題点

  • コンセンサスによる意思決定
  • 軌道修正しない悪しき長期指向
  • 創造的破壊ができない

部分改良で利益が上げられる時代にフィットしたシステム
失敗した場合の敗者復活が難しい
今は正解が容易にわからない時代・経済 → 活発に競争させ市場が評価する方式が重要・有効

アメリカ文化の基準 --- 柔軟性と透明性 --- グローバル化したビジネス世界の基準
日本 秘密主義と不透明

日本的資本主義 : 終身雇用・年功序列・長期雇用 <--> 自由化・構造改革に反対する

経済がもたなくなったら雇用の安定もありえない → 構造改革 (効率を上げる) --- 市場主義・株主の圧力(株主価値重視)

ポール・シェアード
日本型雇用システムは未発達な金融市場・高度成長等戦後日本の特別な環境の中では整合的だった
今では企業は不変で安定的に存続するという前提が壊れた → 労働の流動化



藤巻さんが書名を挙げただけあり、藤巻さんのプロパガンダじゃない部分の主張とよく似ているように思えます。

いま、メモを読み返してみると、日本は「マヌケな政策でバブルを起し破裂に至りしかもまたマヌケな政策10年以上にわたる不況にはまった」と思えてしまいます。政府や日銀の高官は優れた知性と理論と合理性を持っていると仮定すると、その非合理性を説明できないゆえウォール街やワシントンに操られているという陰謀説に至りますが、無知がマヌケな政策の源だったのかも知れません。私も無知でしたが、うーん情けない。

需給ギャップによる不況(みんなが先行不安で消費や投資をさけ貯蓄しようとすると需要が減るゆえ貯蓄できなくなるまでマクロ的に収入が減少するという不況)は適切な政策をとれば1〜2年で脱出できるのかもしれません。今の景気回復は財務省の巨額為替介入と日銀の超量的緩和政策の効果かも。

しかし、実質成長率の改善は、社会的基盤や文化や発想に働きかけなきゃいけないので、すぐに効果は出てこないと思います。雇用に不安があると皆(私も含めて)必死で既得権にしがみつこうと思うので本当の構造改革は進まないでしょう。景気が回復して「これから良くなりそう」と人々が思い始めたときこそ真の構造改革のチャンスでしょう。安部政権(参院選でこけちゃったら民主党政権)には地道に取り組んでもらいたい。

そうは言ってもマンキューの教科書が日本人の常識とは決して言えないゆえ、3つぐらいのシナリオをイメージしています。

(1) 日銀がforward lookingが政策をとり、バブルを抑制しつつ実質成長率の向上に成功し、10年で日経平均4万円
(2) 海外の円キャリーバブルがはじけ為替の巻き戻しで大幅な円高となり、再び不況へ突入
(3) 国内の資産インフレがバブルとなり、インフレ期待が高まり長期金利が高騰、財政破綻ハイパーインフレ)へ

私は(1)のシナリオが実現するとうれしいのだが.....。

*1:「レクサスとオリーブの木」、「フラット化する世界」の著者

*2:藤巻さんは日銀から邦銀に「貸し出しを増やすように」と電話がかかってきた話を著作で紹介しています。どの本だったか思い出せませんが。

*3:不勉強でまだ理解できていません

*4:「豊かさ」の誕生 にも投資家保護と経済成長の関係が書いてあります