雑誌Voiceの藤巻さん

最初の感想は
(1) 藤巻さんにしてはずいぶんストレートだなあ。これを読み頭にくる人もいるんじゃないか、
(2) あれ!、「円安」の2文字が無い。


今回のテーマは

そもそも格差を否定するということは、経済成長そものを否定すると言うことである。

今回の主張は非常にストレートですが、主張そのものは経済学の教科書にかいてあることそのものですね。私なりに藤巻さんの主張を経済学的に解釈していきますが、間違っているかもしれないので気をつけてください。

基本的には経済は、誰かがお金を使うことで回っていく。バブル崩壊以降、長きにわたって日本経済は停滞した。しかし、お金持ちが多額の消費を始めたので、やっと少しずつ、不景気のトンネルを抜け始めたのである。
(中略) 彼らがお金を使うことで経済全体が持ち上がり、底上げが行われるのだ。

消費に支出したお金は誰かの収入なので、人々の消費の総額が増えないと人々の収入が増えない。
人々の収入の総和 = GDP = 個人消費 + 投資 + 政府支出 + (輸出 - 輸入)
個人消費が日本のGDPの60%を占めるので、ここが増えないと収入もふえない(景気が悪い)。
人生には仕事を失うとか予想外のことが起きるため、一時的に収入が支出を下回ることだってありえる。そういうときにゼロ金利で必要な額を借金できれば、あるいは将来の収入増を期待できるときにゼロ金利で借金できれば、一般人だって強気に消費し経済成長の手助けをできるが、銀行は貸してくれないし貸してくれたとしても金利はとても高い。だから、一般人は急な支出や予想外の収入減で生活が立ち行かなくならぬよう、消費を控え貯蓄をしようとする。(そうすると皮肉なことに景気は更に冷える)。私とて一時期は収入ゼロでも節約モードで2年間生き延びられる程度の円の安全資産ポートフォリオを持とうとしていた。だから経済を元気づけるよう消費でお手伝いすることは全然できなかった。
その点、お金持ちは生存を維持できるだけの資産があるので、生存のための貯蓄をしなくてもいい。資産価格が上昇に転じた時点で将来の「期待」が好転するから、すぐに消費を始まられる。こうして、お金持ちの個人消費が増えればGDPにプラスであり人々の収入の総和にプラス。だれかの財布がすぐに暖かくならなくても、別の人が増えた収入で消費を増やしてくれればいずれは人々の懐が暖かくなっていく。これが資産効果による景気回復の過程ですね。


お金持ちは景気循環だけではなく経済成長のためにも必要。

新しい産業を興すためにもお金持ちの存在は重要だ。いまある産業は必ず衰退し、代わりに新しい産業が出現する。(中略) 産業の新陳代謝が起こらなければ、大失業時代が起きる。
 しかし、そのような新産業の成長を促進すべくお金を投資するのは銀行ではない。彼らは保守的で、実績のある企業、業種にしかお金を貸さない
 では、誰がその役割を果たすかといえば、それはリスクマネーを投じる「投資家」である。お金をもった投資家がいるからこそ産業の新陳代謝が起こるのだ。(中略)。
 ここで重要なのは、リスクマネーはハイリターンが期待されるからこそ投じられるということだ。(中略)。逆にハイリターンが期待できなければ、ハイリスクを冒してお金を出す人などいない。

つまり、投資によるハイリターンでお金持ちになることを認めないと、誰もリスクを取らず、新しい産業が興らず、日本経済そのものがジリ貧になっていく。

高度成長時代のように何をやればいいか自明だった時代には政府が間接金融の資金の流れを指図すれば企業は借入金で事業を拡大できたが、今は誰もやったことのないフロンティアにチャレンジしなきゃいけない時代。政府(政治)はこういうこと、苦手です。(気持ちが)若い人々のチャレンジが重要な時代です。新産業のアイデアやガッツを持った人達が必ずしも十分な資金を持っているわけではない。だから、お金持ちの資金がチャレンジャーに流れることが重要で、そのためには汗を流さず金儲けすることに寛容にならなきゃいけない。チャレンジャーが自前で資金を用意するのを待ってたらチャレンジャーは年老いてしまいます。市場の原理でおカネがチャレンジャーに流れるようになれば、失敗も多いが誰かが新しい産業を作り上げ、人々の収入を消費を増やし生活を豊かにしていくはずです。

(「格差是正」という主張は)一部のお金持ちが生まれない社会を作ろうというわけで、そのような価値観を認める社会は、自分で自分の首を絞め、経済を殺しているのも同然である。

藤巻さんはいつになく厳しい。その背景はグローバリゼーションでグローバルに経済のリソースの再配置が行われているからでしょう。

藤巻さんは、

私は小泉前首相の唱えた「構造改革」とは、国際社会で日本が生き残るため、社会主義然とした国のあり方を、真の資本主義に変える挑戦だと思っていた

そうです。私(ゲリラ1号)は小泉前内閣の唯一の政策は自民党の旧田中派をつぶすことと見ていましたが、高度経済成長は復活できる (文春新書) (増田悦佐)によれば、「田中角栄は(本人はそう認識していないだろうが)自民党をのっとり社会主義革命をおこなった」そうなので、小泉前首相の政策は自民党社会主義勢力をつぶすことで日本を資本主義に戻すことだったといえるのかもしれません。ただ、旧田中派的要素は自民党全体にも通ずるところがあるからなあ...。

藤巻さんによれば、「失われた十年」は構造不況で、構造要因は

  1. 円高 (これが一番の構造要因)
  2. 社会主義」。

小泉内閣により、

  • 規制が緩和され、
  • 大きな政府から小さな政府へという流れが作られた

ことで日本は資本主義への道を歩み始めた。
ここでいう「資本主義」とは、おカネの流れを市場に任せ、アイデアを持った若い人がそのおカネでチャレンジし、おカネと知恵や努力をリスクテイクした人におカネで報いることで経済を発展させる体制、を意味すると思います。
その逆の「社会主義」とは、政治闘争で既得権を築き上げ政治的に政治的におカネの分配を決める体制のことでしょう。

斎藤教授の成長信仰の桎梏 消費重視のマクロ経済学の中で、社会主義は「生産する以上に消費する」ことで経済が疲弊し破綻した、と東欧諸国からのMIT留学生が語っていたことが印象に残っています。

日本の場合人が流動しないことで社会を安定させるシステムを作ってきたこともあり、才能に恵まれているハズの人が今では付加価値を生み出しにくくなった場所に配置されたままで、リソースの再配置がなかなか進まない。経済が成長しづらい。ゆえに、藤巻さんは奨学金の重要性を強調するのでしょう。

Voice 4月号には藤巻さんの他に

大前研一さん「ニート対策はナンセンス」 --- 一言に要約すると「真のビジネス・プロフェッショナル階層が誕生し、日本経済の天井を高めることこそが、この国における唯一の希望である」。

山形浩生さん「アメリカの金持ちは借金漬け」、アメリカの金持ちはある程度の流動性があり、中産階級から成り上がった金持ちには執事や女中がついていっぱい消費しまくるよう躾けられる、借金している金持ちも多いから景気が下がると成金から成り下がるかもねという、明るい格差?の話があります。アメリカの新興成金はGDPにいっぱい貢献していますなあ。
山形さんも指摘していますが、

今後日本として本当に重要になるのは、その格差をどうやって固定させず、流動性をもたせるか、ということ

でしょうね。

詳しくはこちらを。


参考文献

高度経済成長は復活できる (文春新書)

高度経済成長は復活できる (文春新書)


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