週刊エコノミスト 5/1・8合併号 最近のドイツ証券武者氏の見解

このところ多忙でしたが連休でやっと一息つきました。

あの超悲観論で有名だったドイツ証券の武者氏が最近は楽観論です。考えを転じた理由を以下のように語っています。

ITバブル崩壊以降、米国経済は深刻な不況に陥ると予想していた。ITバブルのツケは大きく、金利を引き下げても景気は一向に反応しない状況が続いた。グリーンスパンFRB前議長がとった金融緩和政策は、目先の景気悪化を和らげるだけで、より大きな副作用をもたらす弥縫策に過ぎなかった。

これが以前の見解。間違えたポイントはどこか、武者氏は分析の結果を次のように語ります。

02年以降の米国の金融緩和や財政出動を伴う景気対策などカネのばら撒きは、米国1国でみれば、やりすぎでも、地球規模で見た場合は、必ずしもそうではなかった。(中略) 米国のばら撒き政策は、グローバルに展開した「ケインズ政策」だったと解釈できる。
その後、インドやロシア、ブラジルなどが次々に高成長を始め、先進国の余剰資本を受け入れる一方で、そうした途上国の豊富な超低賃金労働を活用することによって、先進国は空前の超過利潤を享受できる体制になりつつある。極端な賃金格差が長期にわたって続こうとしており、これが先進国をはじめとした世界同時好景気をもたらす要因だ。


私はこれを参考にこんなふうに解釈しました。

米国は金融政策の他に強力な財政政策(減税と財政支出増)で経済を刺激すると、
GDP = 消費 + 投資 + 政府消費 + (輸出 - 輸入)
なので,減税で消費を刺激、更に財政赤字の後押しで政府消費も増え、消費が増えれば輸入も増えるものゆえ,(輸出 - 輸入)が大きくマイナスとなりドル安要因。
ここで、対ドルで自国通貨高になるのを嫌うエマージング諸国が

  • ドル買い(自国通貨売り)介入し
  • 買ったドルで利子のつく米国債を買うことで米国政府をファイナンス
  • 更に、為替介入の効果を大きくする為、ドルを買う際に自国通貨を「発行(印刷)」した。

このエマージング諸国の自国通貨発行が対米輸出増効果に輪をかけてそれら国々の経済を刺激した、といえるのかも知れません。通貨を発行して経済を刺激するのがケインズ政策とすれば、米国は他の国々を巻き込んで?グローバル・ケインズ政策をやったといえましょう。

エマージング諸国が米国債の価値を担保に通貨を発行したので米国や欧州が利上げしても世界はおカネ(流動性)があまり気味といえるのでしょう。だから、供給に限りがあるリスク資産やコモディティがジャブジャブのおカネを反映し一足先に上昇(おカネの価値の下落)している。一方、供給過剰気味の労働の対価(賃金)や労働コストが乗る財の価格は上昇しない。

なるほどねー。米国が過激な財政政策で景気刺激をするとエマージング諸国が金融緩和するという仕組みだった。その際エマージング諸国が印刷するお札の裏づけは米国債なので,エマージング諸国の通貨の信用は落ちないし,米政府は資金調達できる。


更に、三菱UFJ証券の吉野氏によれば、この過程でエマージング諸国は外貨準備をたっぷりと蓄えたため、先進国の利上げフェーズになっても通貨危機がおきにくくなったとのこと。