「トカゲの脳と意地悪な市場」 by テリー・バーナム、 原題 "Mean Makets and Lizard Brains"

人間が動物として生き延びるため人間の脳は過去のパターンを認識する強力な働きを持っており直近の歴史を過信過ぎる傾向がある。 それゆえ投資家は超楽観的になる一方極端な悲観主義に走ったりする。 こう著者は主張します。
著者によれば

なぜ人は投資で損をするようにうまれついているのでしょうか? 人の脳は食べ物を探し、棲む場所をみつけ、生き残り、子孫を残すようにつくられていて、いつ証券を買ったらいいか判断できるようにはつくられてはいないからです。人間の脳は、先祖の時代の問題解決には、奇跡に近いほどの優れた能力を発揮したのですが、金銭を扱うことになると、恐ろしく無能になってしまうのです。

トカゲの脳*1は、僕らの投資決断の機構の一部で、大損をさせられることがあるのだ。僕らは生まれつき過去を振り返り、パターンを探し出す脳を持っている。そのために、相場が異常に高いときに買いたいと思い、相場が異常に安いときに売りたいと思うのだ。つまり、人は遠い昔から投資のチャンスと同調できるようにはつくられていないのである

合理的な判断を下す前頭葉はトカゲの脳(本能的行動を司る部分)を完全に支配できておらずトカゲの脳に振り回されるとのこと。市場が極端に走る根本の理由を著者は人間の動物として生き延びるための脳(本能)にあると主張します。
なるほどー。 本能に根ざしているのかー。 これを理解しただけでもこの本を読んだ価値がありました。


トカゲの脳と意地悪な市場

トカゲの脳と意地悪な市場


経済学の理論の世界では、効率的市場とか合理的期待といった徹頭徹尾合理性をベースにモデルを作っていますが、著者は人間も市場も合理的じゃないという。
素人の私はそれほど違和感なく両方を受け入れています。
なぜならば、私は合理的に考えようと努力しているものの,非合理なこともいっぱいやっているから。市場に関してもこうみています。例えば、遠い未来まで冷徹に計算する合理的な投資家と楽観・悲観の2つしかない非合理な投資家が市場にいるとすると、

  • 合理的な投資家の資金量が非合理な投資家の資金量を上回れば、
    • 非合理な投資化の楽観的な買いに対し合理的な投資家は売り続け、
    • 非合理な投資家の悲観的な売りに対し合理的な投資家は買い続けるので、市場価格は変わらない。
  • 逆に、非合理な投資家の資金量が上回ると、合理的な投資家の資金が尽きた時点で市場は極端なほうへ偏っていく。

だから,市場参加者の大半の心理が一方向に傾くと非合理になりかねないと。


以下は関心を引いた部分のメモ。

伝説的トレーダー ポール・チューダー・ジョーンズ2世の机の上の手書きのメモ
「芝刈り機*2に刈り取られないように抵抗*3する草の葉は刈り取られてしまうが、頭を下げて流れに身を任せている草の葉は刈り取られることはない」 --- 正しい道はプライドを捨て多少の損は受け入れながら進むこと。 伝説のトレーダーですら自分を戒めている。

ビジネススクール教授の筆者の見解では、米国経済の生産性向上が3%を超える水準を維持し続ければ、二日酔いを乗り越えるだろう。

*1:著者の造語で氷河時代に形成された人間の脳の反応パターンをいう

*2:マーケット

*3:プライド、トカゲの脳