「資産運用」入門 (文庫版)

景気(GDP)、消費、貯蓄、投資、資産選択、リスク資産価格 etc.の関係がおぼろげに結びつき始めたので、藤巻さんの著作を改めて読み返すことにしました。まずはこの本より。


藤巻健史の5年後にお金持ちになる「資産運用」入門 (知恵の森文庫)

藤巻健史の5年後にお金持ちになる「資産運用」入門 (知恵の森文庫)


藤巻さんのマクロ経済の見解が見える(と私が思い込んでいる)ところをメモしました。


文庫本のための前書きより
1974年のトイレットペーパー買占め騒ぎは、オイルショックによる供給不足もあったが、「列島改造による拡大財政と未曾有の低金利(4.75%)のせい」と言われた。1980年の政策金利は12.75%、今の0,5%はゼロ金利の誤差のうち。すなわち、すさまじい金融緩和状態。
金融緩和とは世の中にお金がジャブジャブに出回ること*1 → お金の価値が下がる → 物の値段が上がる。
円の価値が下がるとすれば、土地・株・外貨資産を持つべき。
個人の資産運用では、5年10年後を見据えて「大きなトレンドを間違いなく掴む」ことが一番大事。


政府や日銀の政策の意味を知っておくことが大切。

  • 政府・日銀が景気をどう見ているか
  • 政府・日銀がどんな政策を打っているか


経済や金融をきちんと学び、デフレになるかインフレになるか、正確に予想できた人がお金もちになれた。
中長期的な資産運用を考える一般の人はチャートをあまり気にしないほうがいい。


藤巻さんの個人資産運用
銀行から長期固定金利で借金し不動産を買う。--- note:今の固定金利を上回る資産インフレを予測
ドル、ドルMMF、米株も買う。--- note:米国よりも日本のほうが激しいインフレになると予測
ただし、アメリカの長期金利も上昇すると予測するので、ドルの長期債は薦めない。--- note:アメリカ経済は強い、インフレ傾向、米国内でのドル不足、インフレ対策の為に金利を高めにする政策 etc.


資産運用に関しては10年、20年単位で考える。土地などはいま買っておかないと、あと15年、20年ぐらい、いいのが買えなくなるだろう*2
JPモルガン時代は'90年代はデフレに向かうことを予測し、日本国債を買いまくった

ちょっと前まで 国 収支トントン 家計 貯蓄 企業 借金
今現在 国 借金 家計 収支トントン 企業 貯蓄(借金返済)

企業が借金を返済するのはデフレのため。
インフレになれば企業は借金をする。--- note:マネーサプライが増える → インフレ圧力
インフレになれば企業は有利なので株も有利。--- note:借金を増やせばよりレバレッジが効く


GDPへの寄与No1は個人消費
個人消費が増えないとGDPが上がらない、景気が良くならない。
一般的には : 所得水準 → 個人消費 *3
藤巻さん : 所得水準上昇よりも資産価格上昇のほうが個人所得に影響する。資産価格の上昇で資産保有者が(これ以上の貯蓄の必要性を感じなくなり)所得の消費と貯蓄への配分を消費側により多く向けるようになることで、消費が増える。
note; 本当はもっと貯蓄したいが貯蓄できないという家計では所得が増えても所得が増えた分が貯蓄に回るだけで消費は増えない、と考えるならば、資産効果はダイレクトに消費につながるのかも!


土地と株の価格の動きのほうが消費者物価よりも日本経済に影響する。
note: インフレ期待が高まり長期金利が跳ね上がるような物価水準にならぬ限り消費者物価を気にしなくてもいいというっことか。


経済が良くなるか悪くなるかは、資産価格いかんだと思う。


市場のジャブジャブのお金は、まず、土地と株に行く。お金の(量が増えることで)値打ちがさがれば土地の値段が上がる。立地の良い希少な物件は相当高くなるだろう。*4


石油価格
オイルショックの時は供給が無くなったため価格がどんどん上がった。限りなく上昇しうる。今は供給はある。需要が増大している。需要が増えれば価格が上昇し景気が悪くなり需要を冷やすため、世界経済の自動安定装置として作用する。


藤巻さんが想定するインフレ
昔のような10%とか20%とかの大幅なインフレになるとは思えない。政府・日銀が少しでも政策を間違えるとそのリスクは相当高くなる。
2%とか3%とかの安定したインフレは良いインフレ。
ただし、土地と株の価格についてはかなり上がると思う。
note: 大幅なインフレになると長期金利も大幅に上昇し、そうなると政府が財政破綻財政赤字の利払いが不可能になること)するため、政府・日銀はそうならないような政策をとらざるを得ない
note: もし利払い困難になっても財政支出削減・増税はすぐには出来ないため、新規の国債発行せざるを得ないが、民間との資金の取り合いとか長期金利上昇を防ぐため日銀が国債を買い取り始めると、マネーサプライが増加しインフレが更に悪化し、財政破綻の状況を更に悪化させる。けっきょく、マネーサプライが指数関数的に増大しハイパーインフレに到る。
note: ハイパーインフレにならなずマイルドなインフレの場合でも、市場はお金の価値の減少を先に織り込むため、不動産と株の価格は消費者物価よりも先にかなり上がる、そして、長期間のマイルドなインフレの結果として消費者物価も賃金も今と比べるとかなり上がって均衡する、というストーリーかなあ。


円安になると輸入インフレ、円高になるとデフレ、となる可能性が非常に高い。
この十数年間デフレだった理由のひとつは、円が強すぎたせい。
土地の価格が原因で景気が左右される。
note: 藤巻さんは金融マーケットにいながら土地の価格を見ている


IMF等の援助を受けることになるような国の破綻は起こらないと思う。そうなる前に、日本国はインフレにして危機を脱すると思うから。
note: 政府の財政赤字は全て円建てとなっていることがKey Point。ドル建ての負債を持っているとインフレになると円安ドル高の効果で減らない。ここがアルゼンチン等の中南米諸国の経済危機との違い。ラッキーですね。


インフレにして財政危機を脱するわけですから、タクシーの初乗り料金660円が、66万円になっている可能性はなききにもあらずでえす。(中略) 国民全体がどうやったらこれだけの財政赤字を改善できるか、もっと議論しなくてはいけないことだと思うのです。(中略) このまま放っておけば、いずれはいま言ったような大インフレの時代が来ます。
インフレの時には変動金利型の債券投資でいいかというと、そこにはやはり問題があるのです。インフレが進んでいるときには、変動金利でもインフレ率に追いついていかない可能性が高いからです。
今後たとえば、「円は受け取らないぞ。支払いはドルにしろ」ということになるかも知れません。
note: 変動金利短期金利に引っ張られるから、インフレ傾向になっても日銀が意図的に政策金利をゆっくりと引き上げると変動金利がインフレ率に追いつかないケースがありえそうです。CPIのインフレが3%なのに変動金利商品の金利が2.5%とか。一方、長期金利は市場が決める(インフレ率を織り込む)インフレ率と連動して上昇するのでは。


金利差というのはけっこう重要。
日本の率力は、いま1ドル200円ぐらい。
為替は国の実力に応じて動くべき。為替のマーケットが本当に自由なマーケットであるならば、自らそのように動くと思う。本来はうまく自動安定装置として為替は動くはずと思う。
note: でも現実はそうなっていない。阻害要因は何か?


現在、日銀が長期国債を大量に買って長期金利を下げることに成功しているが、ピンポイント長期金利を誘導するのは日銀としても不可能。日銀の大量の買取によりひずみがつくられ、それによる「つけ」を払わされることが多くなると思う。長期金利の急騰があるのでは。
note: インフレ政策を実施するまえに財務省は短期の国債をできるだけ長期の国債に借り替えたい。長期の国債の大量発行がきっかけで長期金利が急騰するかも、ということかなあ。


地方財政がこれだけ苦しいから、背に腹は変えられず、国は人口集中化政策ととってくるはず。だから、人が集まるような場所の土地が良い。


私の想像によるところの藤巻さんのインフレに対する見解をまとめると

  • 2〜3%のインフレは良いインフレ (米国の政策目標はこのあたりみたい)
  • 米国のインフレ率 < 日本のインフレ率 を予測
  • インフレ率 > 金利上昇 が続くケースがありえる
  • 長期金利がポンと上がると思う
  • 政策がうまくいった場合、10%台とか20%台のインフレは想定外
  • 政策を失敗すると、ハイパーインフレ


藤巻さんを参考にしつつ、私が勝手に想像するシナリオ --- アテにしてはいけません!私も自分のシナリオを決してアテにしていませんから!

  • 日銀はバブルがおきない程度に短期金利を低めに誘導する
  • 政府は短期に偏った国債を長期の国債に借り替え、残高を長期側にシフトしていく
  • 政府の資金需要で長期金利は上昇するだろう
  • CPIのインフレを織り込むことで長期金利は上昇するだろう
  • CPUのインフレは2〜3%よりも高めのところまで上昇していく
  • 景気の回復とともに新規の財政赤字を減らしゼロを目指す
  • 景気の回復とともの金利が上昇し利払いが増えるため財政支出を絞る
  • 国民の税金の多くのは政府経由で国債の利払いと償還という形で再び国民に戻るようにするため、政府規模は小さくならざるをえない
  • インフレで固定金利の政府の赤字が目減りすることて政府は財政赤字の重荷から脱出する
  • CPIの長期のインフレを先取りするかたちでリスク資産価格が上昇し、また円が安くなる
  • その後、インフレで物価と賃金がリスク資産価格をゆっくりと後追いし均衡に到る
  • この経路の途中で、バブルが生じたり、金利が想定以上に上昇したり、政府の財政赤字解消努力が遅れたりすると、政府が利払いに窮して発行した国債を日銀が買い始めるとハイパーインフレとなる

*1:日銀が発行した貨幣が信用(借入)で何倍にもふくらみ世の中に出回る、今はまだ企業部門が借入を始めていないのでジャブジャブ感がない、と私は思う。

*2:つまり、人々が資産インフレに確信を持つと、売り控えられ、売り出されても一般人が目にする前に買い手がついてしまう。

*3:この教科書的な説はケインズが仮定した消費関数から来ているのではないか

*4:そういえば、オーストラリアのゴールドコーストでは海岸に直接面した希少な一戸建てがとんでもない値段だった。私なんかは台風が来たら高波にさらわれるじゃないかと心配したが、きっとゴールドコーストには台風は来ないのだろう。