@東工大、in 2003

藤巻さんにそう感化される以前から、私はちまたの「ものづくり」礼賛、「ものづくりに邁進する事こそ日本の生きる道」といった雰囲気に強い違和感を感じていました。 特に「ものつくりで雇用を」というロジックが!。 私の商売はエンジニアですが... *1

さて、JPモルガン証券菅野雅明さんが2003年に東工大のプロジェクトマネージメントコースでゲストスピーカーとしてマクロ経済を講義したことを知りました。
http://www.nikkeibp.co.jp/style/bizinno/motguide/article20030722.shtml
このコースの教授の門多丈さんによる文章より私が菅野さんの見解を要約。

  • 日本については、過去の政策の失敗と問題の先送りから「ガンの末期症状で、抗ガン剤も効くかどうかわからない」という状況にあると。
  • 特に銀行の経営は破綻しているとの指摘 (注:このコメントは2003年7月)
  • 「日本の製造業の生き残る道は、少ない労働力で高い生産性を上げることであり、製造業で雇用を守ることはできない」
  • 「サービス産業の競争力と生産性を上昇させることで、雇用の増加を図るべき」

ここからは私のたわごと。
乱暴な仮定で考えてみます。グローバル経済では原材料は世界中同一価格、工作機械も同一価格、労働コストだけが違うとすると、

  • 利益 = 売値 - (原材料費 + 工作機械の減価償却費 + 労働コスト)
  • 労働コスト = 単価×人数

この乱暴なモデルでは日本の製造業が生き残るためには、労働コストが生き残りのカギを握ることになります*2。 外国企業と競合し価格が下落すると労働コストが高いほうが先に立ち行かなくなる。 仮に倒産しないとしてもいずれ資本の論理で再編成に追い込まれる。
製造業で雇用を守りつつ製造業が生き残るためには、この乱暴モデルでは労働単価を下げる!こととなります。 円が安くなればグローバルに見れば労働単価が下がることになる。 円が安くならないならば円建ての労働単価を下げる圧力がかかる。 昨今の労働者派遣と格差の問題はこの圧力が作用した結果といえるかも。
グローバル経済では地球上で同じ仕事を安くこなす労働者が存在すると「ものづくりで雇用を」というロジックは苦しい。 閉鎖経済ならばたぶんOK。
もちろん、仕事が全然無いよりは有ったほうがうんと良いが、マクロで見れば製造で雇用を抱え込むのは(経済学でいう)非効率的といえるのでしょうね。 では、サービス産業はなぜ雇用を吸収しうるのか? ... サービスは貿易しづらい、人間がその場に要る必要が多いから、きっと。

*1:もちろん、注目される目新しいブームが欲しいメディアの人たちやブームを利用したい人たちの事情はなんとなくわかりますが。

*2:もちろん特殊な技能や長年のトレーニングを必要とする工程があり外国では製造できないというケースもあることは承知していますが、そういう工程は限られているので話しを簡単にする為にここでは無視。