「円安・インフレ・高金利」が日本を襲う理由 by 櫨浩一 from フナンシャル・ジャパン 12月号 (2/2)

私のメモ&たわごとです。


円安になる理由
経常収支 = 家計貯蓄 + 企業貯蓄 + 政府貯蓄(財政収支)
家計貯蓄率がゼロになると国内の生産で国内の需要(=消費+投資)を賄えなくなると、貿易・サービス収支は赤字になる。 2015年前後。 所得収支が大きいので経常収支がすぐに赤字になるわけではない。 経常収支の黒字から赤字への転換で、為替は円安となる。 経常収支が赤字になると日本が海外に保有する対外資産も減少するため所得収支も減少し、経常赤字は拡大する。 円安は加速する。
米国はドルの借金の返済を求められた場合ドルを返せばよいのでドルの資金繰りに窮する恐れは小さいが、日本が対外債務を支払う場合はドルで払うので経常赤字が続き外貨準備が枯渇すると円の通貨危機がありえる。
実効為替レートはプラザ合意前の水準まで円安になっているが、長期的には更なる円安が予想される。対人民元では大幅に円安になる。

少子高齢化 → 企業の新規投資にまわす資金不足 → 生産能力を増強できない → 生産能力の低下で貿易・サービス収支が赤字化 → 所得収支の黒字を侵食し経常収支が赤字化 → 円安 → 所得収支黒字の減少で経常収支赤字が拡大 → 円安が加速

このように記事では長期の作用がまとめられています。 私にとっては 経常収支= の式で十分ですが。
私が思うに、為替市場が家計貯蓄率ゼロを織り込むと実体経済の生産能力低下が生じる前に円安となるのではないのかなあ、と。 株式市場には企業業績といった指標があるが、為替ではファンダメンタルズの明確な指標が無いぶん、市場参加者が「織り込んだ」度合いで決まるから、藤巻さんでもタイミングを特定するのは難しい。


インフレになる理由
貯蓄率ゼロ経済は人口減少経済なので需要不足になるという意見は間違い。 貯蓄率の低下は家計が所得の中から消費に回す割合を増やすことを意味するので、所得が増えなくても消費は増える。 一方、貯蓄率ゼロで生産設備は増やせず、人口減少で働き手は不足するため、供給不足に向かう。 貯蓄過剰経済では供給過剰でデフレ傾向だったが、貯蓄率ゼロ経済ではインフレ気味となる。 労働力不足で人を奪い合う状態になり、企業は人件費の上昇を価格に転嫁せざるを得なくなる。
日本以外にも東アジア諸国も急速に高齢化するため、移民で解決というのは甘い。
経常収支の赤字化は円安を引き起こし、円安はインフレを後押しする。 さらにインフレは円安を後押しする。

経路1: 家計貯蓄率低下 → 生産設備増強にまわす資金不足で供給力が伸びない → 需要>供給 → 物価上昇
経路2: 労働力人口の減少 → 店の減少 > 客の減少 → 力関係は店の方が有利 → 値上げしやすい環境
経路3: 経常収支赤字 → 円安 → 物価上昇


金利になる理由
人口減少で経済成長率が低下するので金利が上がらないという意見は間違い。 家計貯蓄率がゼロになり家計からの資金供給が止まることで、国内の資金需給は供給過剰から需要超過に変わる。 特に財政赤字削減に失敗すると僅かな資金を民間と政府が奪い合い、金利が高騰する危険が高い。 家計の余剰資金(貯蓄)は銀行・保険会社を通じて企業に貸し付けられ設備投資に使われてきたが、家計の資金が消えると、たくさんの金利を払わないと借りられなくなる。
日本はこれまで財政赤字を国内の貯蓄で賄えたが、貯蓄率ゼロ経済では海外の資金で財政赤字を賄わねばならない。 そうなると財政赤字の規模が長期金利に影響するようになる。 名目GDP比で1%の財政赤字増は長期金利を0.2%程度押し上げることになる。 現在のような大幅な財政赤字が続けば、財政(リスク)プレミアムで長期金利は2%程度押し上げられ、6〜7%に達することもあろう。*1
海外から日本に資金が流れ込むためには日本の方が海外よりも金利が高くならねばならない。 海外から資金を長く調達すれば日本はいずれ対外債務国になる。

経路1: 家計貯蓄率ゼロで家計からの新規の資金供給が止まる → 国内の資金は供給過剰から需要超過へ → わずかな資金を民間の設備投資の資金調達と政府の財政赤字国債発行とが奪い合う → 金利高騰*2
経路2: 貯蓄率ゼロ経済ではおカネの流れが海外から日本へとなる → そのためには海外よりも日本が高金利とならねばならない → 金利上昇

円がインフレ&高金利通貨になると、金利で買われてジリジリと円高になった後ストンと大きく円安に振れるというのを繰り返し円安が進むのでしょう。


「今後どうすればいいか」

  • 外資産の運用効率を上げる
  • 国内資産の有効活用の為に、生産性向上
  • 世界的な人材の争奪戦が起きることを考えて、日本人自身の能力そのものを引き上げる。 教育問題の解決は待ったなしだ。 世界に伍していける人材の「質」と「数」が日本の将来を決定的に左右するだろう。


櫨さんは経済のシンプルかつ強固な基盤(経常収支 = 家計貯蓄 + 企業貯蓄 + 政府貯蓄(財政収支))から、日本経済の未来を説明します。 この櫨さんと藤巻さんを並べたところがフィナンシャル・ジャパン編集部のセンスの良いところで、藤巻さんが読者のホームワークとしてあえて懇切丁寧に説明しなかったところを、櫨さんのインタビュー記事で解説しちゃった。 読者にはとってもわかりやすい。 とはいえ、マクロ経済学入門の教科書をこなしていないとチンプンカンプンなので、金融リテラシーのためには経済学リテラシーも要る。 だから藤巻さんは「教科書をちゃんと勉強しろ」とおっしゃるのでしょう。

また、シンプルかつ強固な基盤に立っているからこそ、藤巻さんは(きっと)

  • 個人の資産運用では、長期のポジションをとったら、あとは平然と逆風に耐えられる
  • 仕事の資産運用では、短期・中期的には勝ったり負けたりを繰りかえしながらも勝つ確率を多くし、長期的には大きく勝ちにいく
  • プロパガンダポジショントーク)は何時も同じ


1年前、この本には世話になりました。

貯蓄率ゼロ経済―円安・インフレ・高金利時代がやってくる

貯蓄率ゼロ経済―円安・インフレ・高金利時代がやってくる

*1:逆に言えば、正常な長期金利水準は4〜5%。 長期金利が正常な水準に戻るだけで税収の多くが利払いに消えてしまう。

*2:悪い金利上昇