日経・経済教室のサミュエルソン

1月3日の日経新聞の経済教室は「'08ニッポン再設計」というシリーズもの第1回目としてポール・サミュエルソンが登場し、私にとっては興味深い内容だった。 
以下は要約。


戦後の日本の高度成長は奇跡的であったがサミュエルソンにとっては必ずしも意外ではなかった。 低賃金の労働者が高賃金の労働者がすでに使っていたノウハウを学び経済成長を達成することは米国南部で見られたことであり、日本、東アジア諸国でも起きた。 中国とインドは左翼のイデオロギーという「麻薬」で眠り続けた。
なぜ日本が20世紀末に問題を抱えるようになったか?。

  • (1) 日本の株価と不動産の投機バブル崩壊後、日本の特異な企業制度によって問題への対処が遅れ、損失を最小限にとどめることができなかった。
  • (2) 「全員一致を前提とした意思決定」という日本独特の企業慣行に本質的欠陥があることが明白になった。
  • (3) 終身雇用制が雇用面で非効率な硬直性を助長する欠陥が明らかになった。
  • (4) 日本には優秀なビジネススクールや経験豊かなケインズ義経済学者が存在せず、国会や官僚制もクルーグマンのような学者の助言を聞き入れなかった。 その結果、公共投資拡大策を迅速かつ精力的に実行しなかった。

たわごと: 手厳しい!。 でも私もそう思う。 この問題は解決できるか? 文化と既得権がからむから強いリーダーシップが無いならば1世代はかかるのではないか。
なぜフリードマン提唱の日銀による利下げは成功しなかったのか?。 金利がゼロ近くまで下がると「フリードマンの万能薬」はもはや効かない。 彼はマネーサプライについては知っていたが流通速度の低下については理解できなかった。
たわごと: この大御所の大御所に対するコメントは実に興味深い。 たしかケインジアンは人々の心理が萎縮しておカネを貯めこむことで流通速度が低下するとする。 その点、フリードマンは人間をもっと機械的に見ているらしい。 そのほうがモデル化しやすい。
キャッチアップのためにかつて日本がしてきたことと同じことを、いま中国とインドが日本に対してしようとしている。 こうした状況は長く続こう。
たわごと: 大量動員・大量生産型「ものづくり」やネットで接続できるサービスでの両国の日本に対するチャレンジは長く続く。
少なくとも日本人は国内貯蓄の低金利を容認するのをやめるべきだ。 国際ポートフォリオを持つのが賢明だ。 日本国民にも日本政府にも良くない。 日本政府は黒字の大半を低利回りの米国債で運用している。 円相場の上昇を抑え輸出には寄与するが、外貨準備の運用をドル建て資産から他の通貨に切り替えておくべきだった。 ドルは今後も長期間下落し続ける。 ブッシュ大統領就任以来、米国は良き経済政策を模索する国の悪しき手本になっている。
たわごと: 日本人が国際ポートフォリオを持てば円は安くなり、輸出と資産効果による消費増で経済を成長させられたかもしれないし、円で貯蓄をしようとしなければ長期金利は上昇しただろうし、長期金利が普通の水準だったならば政府はこれほどまでの財政赤字を積み上げなかったかもしれない。 いつまでも低金利(経済の停滞)を続けるといずれ悪い金利上昇が起きちゃうから、さっさと良い金利上昇を受け入れろということか。 いまさらブッシュ政権の経済政策はヒドイのでドル資産はダメと言われても政府は困るだろう...。
市場原理を導入しながら、公的規制の下で競争するという「中間の道」がある。 
日本の労働者が現在よりも長期にわたり働き続けるべきであることは明白。 世帯あたりの平均所得と貯蓄を引き上げる方法のひとつは夫婦双方が働くこと。
今後の日本は新しい問題にも直面する。 しかし克服できないとは思わない。 日本以外の国の将来は日本よりもっと暗いようだ。 米国人は貯蓄をせず消費過剰になっている。 フランスは伝統的理由から労働時間不足。 欧州も北米も移民と国民の間に緊張や摩擦がある。 
エネルギーや原材料価格が上昇し、インフレ加速防止は各国の喫緊の課題であり、インフレ懸念は中央銀行の金融政策を引き締める効果がある。 日本はその反対の心配がある。 日本国民はインフレ率を1〜3%/年に引き上げる政策で利益を受ける。 こうなれば日銀は金利を戻せる。
ただし、国会議員が分別のない公共事業を推進するようなことがあれば危険にさらされる。
たわごと: さらりと書いてある「危険」の二文字がriskyでdagerousなんだよなあ。
欧米の08年のGDP成長率は小幅にとどまろう。 景気後退の可能性が強い。 日本もこの問題を警戒する必要があり、国内消費にまだ弱い部分があるだけに財政赤字脱却を目指した真剣な消費税引き上げの議論を始めるのは時期尚早だ。
たわごと: 財政赤字とからみビミョウなところだが、サミュエルソンは消費者の心理に重きをおいて、慌てるなと言っているように聞こえる。