1月8日 日経経済教室 by 冨山和彦 「後世への富継承こそ品格」

ロジカルでクリアでストレートな主張だ。 私もそう思うので、ロングテールの末端の本ブログでも勝手に「プロパガンダ」しようと思う。

 日本は衰退国である。(中略) 品格論者は「日本はカネ、カネ、カネの社会に成り下がった」と嘆くが、実際は、世界的にもカネの稼げない国、国民になりつつある。
 (中略) 機会費用という観点からは、日本は今も失い続けている。

筆者に日本に関する現状認識がストレートに表明され、

 世界には日本国内とけた違いの格差が存在する。(中略) 中国やインドなど新興国の急成長は、先進国との格差をうめる大きなうねりとなっている。 国家間の富の移動が自由になり、天然資源大国と人材資源大国への富のシフトも加速する。 

これはグローバル経済に対する認識表明。 そして、グローバル経済の中の日本を

エネルギーの96%, 食料の69%以上を輸入し、かつその輸入原始を海外から稼いでいる日本国民は、自由で公正な市場経済システムがあればこそ「食えて」いる。 国内の格差問題に対応するために、反グローバル化鎖国型の所得再配分政策を採れば、資本と労働の空洞化は避けられない。 そうなると、日本企業自身が国際競争に負けて潰れ、その結果、最も疲弊するのは日本国民の生活である。

と位置づける。 そして

政治も論壇も、極めて表層的な格差論議と、場当たり的な所得再配分による慰撫策論争が大勢だ。
 格差の真因は、新興国も含めたグローバル競争下で、生産性、競争力格差に直面した産業セクター、地域、年代が生じてしまったことにある。 構造改革がその格差を顕在化させた側面があることは否定しないが、根本原因はもっと深い世界史的脈絡にある。

と、国内の政治的状況と経済史的必然とのギャップを指摘。 「日本の製造業には競争力がある。だから日本経済は磐石だ」という、日本企業と日本経済とを混同した議論に対しては、利益の相当部が海外法人から生まれるならば労働分配的には海外で価値を生み出している人々に配分するのがフェアであると指摘。

 企業のグローバル化の果実を日本国民が手にするまっとうな方法は、これら企業の株式を家計が保有することだが、この国はリスクマネー創出につながる金融自由化や郵政民営化に大きな遅れをとった。 法人税制や証券税制に至っては、政治が情緒的論理に足を取られ、時代遅れの体系を変えられないでいる。

と、政治に国家と国民経済の減衰の大きな原因があることを示唆。 そして、選挙制度が原因があると主張。

経済財政政策での国民的な意思統合を妨げている最大の要因は、労使対立でもなく、官民対立でもなく、地域間対立も本質的ではなく、リアルな対立の構図は、どの地域でも世代間対立であり、子得権益の内と外の間の利害対立だ。

具体的には

  • 大借金国家における少子高齢化は、社会保障の問題で、多数派たる中高年と少数派たる若者との間で深刻な利害対立を生み出す。
  • 雇用や生活に関する諸制度は終身雇用を前提に設計されている。
  • 企業内でも権力を握っているのは年功があり多数派の中高年世代。

彼らの雇用維持を優先するからこそ、不況期には新卒採用を抑えて若年層を排除する。 その結果がロストジェネレーションであり、現場力の疲弊だ、と指摘。

 さらに、高度成長期以来、安定が続いた社会システムの中に巨大な既得権益構造が形成されている。 (中略) その中に「正規雇用者」や「有資格者」として運良く潜り込めた人々と、はじき出された「非正規雇用者」の間にこそ、本来の生産性や競争力を反映しない不公正な格差と対立がある。

なぜ、民主主義国家でこのような不公正がありうるのか? 筆者は

  • 若い世代が、人口分布的に、圧倒的に少数派
  • 若い世代が多く住む都市部は最大5倍の一票の格差がつけられている
  • 所得再配分に依存している地方ほど既得権構造が温存され、与野党ともに本質的な論点に切り込むことは困難。

という。

司法の怠慢と政治的エンコを乗り越えるための実質的な決定権は筆者ら中高年にあり、

確かに地方を中心に気の毒な高齢者も多い。 しかし今の若者が高齢者になる50年後、この国は「稼げない」どころか「食えない」国になり、彼らはもっと気の毒な高齢者となる可能性が高い。 そうならないために、自らの不利益となるような変革を実現できるのか。 (中略) 豊かで平和な時代を生きてきた私たちの世代の品格が問われている。

と結ぶ。


日本では、政治的にも論壇的にも、市場主義経済はなぜか不人気*1のようだが、

  • 市場は(完璧ではないが)公平・公正であり、
  • 価値を創り出す人に報い
  • リソースを全体として最適に配分でき、経済は成長し、人々は豊かになる

日本型社会主義経済から市場主義経済に移行できるか?。 私なら、後世の人々に「大マヌケな世代」とは言われたくない。

*1:市場主義では既得権が剥ぎ取られてしまうので格差という人々の不安に付け込んで声高に反対する人々がいても不思議ではなかろう。