ハイパーインフレ
世界史の教科書の「手押し車に紙幣を山積みにして買い物をする第1次大戦後のドイツ人」の写真を見て以来、ハイパーインフレとは正体不明の非常に恐ろしいものだという印象があった。 ブログの世界でも正体が分からないが故にびびっている人も多いかもしれない。
ところが、教科書(ブランシャールのブランシャール マクロ経済学〈下〉、ミシキンThe Economics of Money, Banking, and Financial Markets: International Edition)を読むとハイパーインフレのメカニズムはとてもシンプルなことが分かる。
- ベースマネーが加速度的に増えて、
- マネーサプライが加速度的に増えおカネがジャブジャブになり
- おカネの価値が自由落下的に下落することで、物価が加速度的に上昇する
というものである。
なぜベースマネーが加速度的に増えるか?
おカネを発行する権限を持つ政府や中央銀行がバンバン発行するから。
なせ、そんなことをするのか?
歴史を見ると原因は一つだけ、政府の財政破綻。
政府の支出を税収や国債発行で賄いきれないとき、紙幣を印刷し、その紙幣で支出を賄うことも出来る。 そうすると何が起こるか?
- ベースマネーが増え、マネーサプライも増える
- インフレが起きる
- 政府支出が増える
- もっと紙幣を印刷する
- もっとベースマネーとマネーサプライが増え、もっとインフレが激しくなり、もと政府支出が増え、もっともっと紙幣を印刷し ....
このサイクルが回り始めると、人々はインフレを織り込むようになるので、すぐにおカネをモノに変えようとすることでもインフレは加速するし、賃金や家賃も加速度的に上昇していくのが当たり前になっていく。
先進国では金融市場が発達しているため税収が不足しても政府は国債発行で資金調達できる。 一方、発展途上国では財政赤字のとき国債を売りさばけずついつい紙幣印刷に走りハイパーインフレになる。 第1次大戦語のドイツは、巨額の戦争賠償金の支払いの為に紙幣を印刷したらしい。 第2次大戦後の日本政府も税収が無いのに外地から人々を引き上げたりとかの費用を賄うために紙幣を印刷しちゃったらしい。 西南の役のときカネが無い明治政府は紙幣を印刷して戦費をまかなったのでこのときも結構インフレになった。
ハイパーインフレを止めるためには、ベースマネーの増加を止めればいい。 このとき、人々が政府や中央銀行の本気度を信じていないと、マネーの供給は増えないのに需要だけが高まり金利が必要以上に上昇し経済を窒息させつつやっとハイパーインフレが終了する。 政府が財政支出をカットするとかちゃんと税金を取るようにするとか具体的な行動を示して人々が政策を信じれば、あっさりとハイパーインフレは終わる。
今の日本の場合、巨額な財政赤字を抱え、金利が普通の水準に上昇すると税収が累積赤字の利払いに消えてしまう。 こういう財政破綻のときに国債発行で資金調達しようとしても金利が高く来年からの利払い総額が増え苦しいし、無理に発行すると金利が上昇するから借換えの分の利払いが増えて苦しくなる。 ムダな公共事業を全てカットしても政府や地方自治体が支出しなきゃいけない仕事はある。 こういうときに「紙幣の印刷」は魅力的....。
ハイパーインフレになるかならないかは、財政破綻するかしないかに強く依存し、財政破綻しなきゃハイパーインフレにはならない。
将来財政破綻しないための条件は
- ずーっと超超超低金利が続く → ちょっと考えにくい、市場金利をゼロ近くに貼り付けるためにわざと不景気を続けるという政策も病的だから考えにくい
- 財政支出を大幅にカットかつ増税し必死で累積赤字を減らす → まっとうな道だが景気を冷やす → 税収が減るから赤字削減はなかなか大変
- 経済成長を持続的に続け、GDPを大きくすることで累積赤字を相対的に取るに足らない額にする*1
ちなみに藤巻さんの提案は、資産価格は上昇するがCPIはグローバリゼーションの影響でなかなか上昇しないという微妙な状況を長く維持し資産価格上昇による景気刺激で経済成長を進めつつ赤字削減を進めるという、2番目と3番目のあわせ技。
ここからは2月4日の続き。
経済成長しなくてもいい、という選択は3番目の道を捨てることになる。 財政破綻を避けるためには、2番目の辛いイバラの道*2を行くか、1番目の運を天に任せるような道*3を行くことになるが、あっという間に道を踏み外しそうで、怖いなあ、ハイパーインフレ ....。
こういうわけで、私としては、「内向きにこれでいい」ではなく、経済成長を目指して欲しいのだ。
藤巻さんのおかげで、ハイパーインフレへの道筋が自分なりに分かるようになったのは嬉しい。