「英国の復活 日本の挫折」

藤巻さんの課題図書?をやっと読みました。もっと早く読めばよかったと後悔。


以下は、内容の一部のメモと私のたわごとです。 欧州の通貨統合の政治経済的背景やブレア政権の政策とかの興味深い話題も書いてありますが、それらは省略。 別の機会に。


グローバル化とは何か
異なった国の企業同士が国境を越えた共通市場(生産物(モノ)の市場、資本(カネ)の市場、労働(ヒト)の市場)で競争するようになっている。
グローバル化の結果生じる5つの現象

  1. 共通市場ないでは同一商品の価格が一つに収束する。 モノの価格(物価)、ヒトの価格(賃金)、カネの価格(金利)はおおむね同一水準に一本化される。 標準品、普及品の価格が内外で一体化すると、各企業はそれぞれの得意分野に特化し独自の商品やサービスを提供しない限り儲けられなくなる。
  2. 世界的スケールで規模の経済が働くようになるから、企業の適正規模も大きくなる。
  3. 企業経営に関わるステイクホールダーが広範になり、それを意識して企業経営が行われる。
  4. グローバル化し内外の経済が一体化すると、固有の文化や国民としての連帯意識が希薄化する。 結局、文明とはさまざまな文化を吸収し同化する包容力であって、文明の高度化を追求する限り、固有の文化は多少なりとも犠牲になる。
  5. グローバル化は国家政府の役割を希薄化させる。


通貨統合の経済政策への影響
欧州通貨統合の結果、

この結果、財政赤字の継続的削減が至上命題になる → 財政支出拡大には限界がある → 各政府がとり得る経済政策は、供給サイドの構造改革策、具体的には賃金調整メカニズムが働くように労働市場を弾力的にする政策だけになってしまう。

欧州の市場が一つになる → 為替の大幅な変動が負担になる → 単一通貨 → 為替で調整できないから「価格」で調整する → 労働市場も弾力的にして賃金を調整できるようにする。 (需要にあわせて供給側の供給量(価格)を調整する。 cf. 日本では供給量が大きく変わらぬよう、財政赤字で需要を増加させた)

著者の渡部亮氏によれば欧州通貨統合は政治的意図による統合と指摘していますが、長期的な成長の為に短期的には人々に痛みを強いる政策で、経済的に自然ではない(政治に依存する)ゆえ藤巻さんはユーロを避けたのではないかと、勝手に理解しています。


英国の復活から日本が学べること
屋台骨となる40代から50台にかけての(注:98年の時点の話です)団塊の世代が、心理的・精神的に弱っているように見える。 彼らは三重苦を背負っているといえるかもしれない。 三重苦とは、

  1. バブル崩壊の後遺症、株価や不動産価格などの低下で資産の貯え(いわゆる含み益)が無くなった。 資産はあってもそれを有効に運用する方法が無くなった。 仮に高リターンを生む投資対象があったとしても、含み益の減少と所得の伸び悩みで大きなリスクを取るだけの懐の深さはなくなった。
  2. 雇用不安。 従来、大半のホワイトカラーは一つの会社内でジェネラリストとして育てられてきた。 ジェネラリストが出世の王道だった。 その結果、会社外のオープンな労働市場で通用するようなスペシャルなスキルが摘み取られ、経済成長が止まりジェネラリストとしての出世のポストが少なくなると、職を失うことに対する不安がつきまとう。*1
  3. ネットワークやアーキテクチャー(設計仕様)など新技術のパラダイムに関する知識不足*2

団塊世代の人々が、グローバルでボーダーレスな時代を個人として生き抜く気概と自身を持つことは容易ではない。 そのことが日本経済全体のアニマルスピリットを減殺している。
英国から学べること : 一国の経済社会は非常に短期間に変貌と遂げ得る。 ただし、その前に危機的な状況が先行して起きないと難しいかもしれない。 危機の繰り返しのなかでイロイロな解決策が模索され講じられるだろうが、結局は、市場経済の力によって改革を進めていく以外に方法はない。
グローバル経済とは、労働市場、資本市場、商品市場が国境を越えて一つにつながっているシステムだから、市場の論理や力を利用する以外には選択の道はない。 ただし、市場経済にはそれなりのルールとルールの守護者が存在すべきである。


対内直接投資が経済活性化や雇用成長に寄与するとして、日本にあてはめると?

対内直接投資(=資本輸入)が起きるためには、日本の貯蓄投資バランスを貯蓄超過・投資不足から貯蓄不足・投資超過に動かさねばならない。 つまり

ことで日本経済は活性化する。現在の経常収支黒字を前提にしても

  • 資本収支の赤字をいっそう増加させる

ことで、為替レートを円高にすることなく輸出を増加させ、日本経済を活性化することも可能だが、日本の投資化が為替リスクとカントリーリスクをとって外国証券投資や対外融資を増やすことは限界がある。
いずれにしろ、日本経済を活性化するためには、日本人が今までの日本人とは異なる行動様式(つまり、規制緩和と活発な消費 or 積極的な海外投資)をみにつける必要がある。


従来の日本における「ステイクホールダー資本主義」は、日本国内におけるステイクホールダー(企業利害関係者)だけに配慮するという意味で、国民国家(ないし民族国家)の存在を強固な枠組みとみなす考え方であった。 しかし、企業経営が国家の枠組みを大きく超えている現在、当然の帰結として、企業内部者や国内の利害関係者だけを重視する「ステイクホールダー資本主義」は守勢に立たざるを得ない。


金融規制を緩和していくと、資金が円滑に供給されるようになり、インフレ懸念が生じたり資産インフレ(バブル)になる。 インフレやバブル防止の金融引き締め政策が金利上昇と為替高をもたらし、製造業の利益を圧迫する。
(製造業に頼らない米英の)楽観的なシナリオ
為替高 → 安価な輸入品の流入 → インフレ抑制 → 長期金利の低下 → 金融資産への投資を促進 → 資産インフレ(バブル)の懸念はあるが資産価格の上昇が消費性向を高めて景気の長期拡大を可能にする → 堅調な景気は資産価格の更なる上昇となって好循環が形勢される → 好循環が続けば金利のインフレプレミアムが減り金利水準が低下する可能性がある。 (低インフレ & 低金利で経済が持続的に成長すれば)まさに黄金時代である。

*1:失職の不安があれば消費せず貯蓄しようとするから景気は悪くなる。

*2:ジェネラリストを目指し社内に目を向け続ければ、意思決定する立場に立った頃には新技術に疎くなるのも無理ないかもしれない。