「人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか」

2007年の経済週刊誌のビジネス書ランキングにて(確か)1位を取った本。

人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか

人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか

1995年を境に戦後経済の常識の多くが通用しなくなった。それはその前後で世界経済を支配する法則が一変したからだ。 もっといえば、日本の戦後は近代が最も凝縮されたじだいたっだから、近代の常識が覆されているといっても過言でははい。

と、歴史を参照しつつ、「帝国」の台頭と国民国家の退場で「新しい中世」が始まっている、と詳細なデータを交えつつ過去約10年で世界がいかに変わったかを解説する。 歴史の裏打ちと詳細なデータで説得力があり、非常に面白い。 この点がビジネスパーソンに人気の理由だったのかも。
さらに、へそ曲がりな私は、「確かにそう見えるけど、本当にそうかなあ?」、「因果関係だろうか、それとも相関関係だろうか?」、「原因と結果が逆では?」、「現象は変わったとしても不変(普遍)のメカニズムは何?」、「後講釈ではないか?」etc. と、「?」がいっぱい出てきて、考察の材料がたくさんあり楽しめる本。 けっこう気に入っています。


以下は、ナルホド!と思った箇所のメモ + 私のたわごと


ルービンがとった「強いドル政策」は、世界のマネーを米国にいったん集中させ、その後再び世界に配分するシステム。 それを実行するためには

  • 経常赤字の増加が成長の制約にならないようにすること。 そのためには、世界中に高いリターンを求めて「過剰」なまでに溢れているマネーを、必ず経常赤字額以上に米国に流入させる必要がある。
  • 米国の対外投資を増加させる。 経常赤字以上に資金流入があれば、BRICsなど今後高い成長が見込まれる国に多額の資金を投資できる。

目指すところは、米国民の生活水準をいっそう向上させること。

要するに米国全体が投資銀行をやっているようなもの。 海外がら低金利の債権で資金調達し、海外にハイリスク・ハイリターン投資を行い、調達金利と運用利回りの差で稼ぐ。


経済が成長すると、その間に資本ストックの蓄積が進み供給力が増加する一方、人口増加率が鈍化して需要が減少し、投下資本のリターンが徐々に低下する。 長期にわたりリターンが低下し魅力的な実物投資先がなくなると、マネーは土地や金融資産投資に向かう。
先進国の実物投資リターンの低下と中国等アジアの実物投資ブームはコインの裏表。 中国の投資ブームによって作りださえれる製品は中国の中流階級が台頭して内需主導経済に転換するまで、先進国の消費ブームによって吸収しないと、需要(消費)と供給(投資)が一致せず、世界的な過剰生産に陥る。
先進国の資産ブームが購買力を高めている限り需要が創出される。 資産ブームが起きるためには過剰なマネーの存在が不可欠であり先進国の物価安定が前提となる。 資源インフレが生じても、巨大な生産能力をもつ中国の数量効果で一製品あたりの固定費を削減しているため、世界の工業製品は値上がりしない。

水野和夫氏はこのようにおっしゃるのだが、マネージャブジャブの効果が伝播するまでの時間差ではないかと私は思うのだが。


「近代主権国家」の最も重要な要素は国境であるが、その国境がIT革命とグローバリゼーションで限りなく低くなってきた。 国境の確定は近代になってからのことである、中世には国境という概念はなくラテン語が世界言語だったように、現在のインターネット社会では英語が世界言語化している。 このように今、国境、言語といった近代を決定づける要素に大きな変化がおきているのである。 そのため、近代世界システムの枠組みをもとにした分析ツールを用いて現在起きている経済現象をとらえようとしても、うまく説明できないのである。

枠組みの「どこが普遍」で「どこがどう変わった」か?


米国の「マネー集中一括管理システム」を脅かす要因

  1. 世界のマネーフローの変化
  2. 世界のマネーストックの収縮

後者がおきた場合、米国にマネーを集中させれば長期金利が上昇する。 資金不足に陥った他国はドル資産を売却するだろうからドルが急落しドル本位制が危機に陥ることになる。 マネーストックが収縮するのは先進国やアジアで過剰貯蓄がなくなるときであり、中国の投資ブームが終わり内需主導経済に転換するときであり、内陸部の貧しい人々が中産階級化するときであり、相当先。


グローバリゼーションはこれまでの「国民国家」単位で成立していた同質性・均質性を壊していく。 グローバリゼーションは世界を、「近代(モダン)」と「ポスト・モダン(新しい中世)」の二つに分ける。 「近代」の側は高成長だが、「新しい中世」は具体的な仕組みが見えず混沌とした社会。
先進国では近代が終わり、近代化する途上国と切り離された先進国の非製造業部門では長期にわたって成長率が鈍化・あるいはマイナス成長する。
ポスト・モダンに移行し低成長に直面した先進国(特に英語圏)がとった戦略は、資産価格と外国貯蓄に依存した経済への移行だった。


成長の収斂仮説 --- ある条件を満たせば、生活水準の低い国は豊かな国よりも平均して速く成長し、最終的には先進国の生活水準の7割から9割に収斂していく。
「ある条件」とは

  • 内生的要因 : 社会制度、技術革新、人口動学要因 の相互作用
  • 外生的要因 : 地理的要因、地政学的要因

IT革命は技術革新であり、グローバリゼーションを通じて地理的要因としても作用した。 21世紀になると、生産システムと生産関係はデジタル革命で容易に国境を越えることが可能となり、コミュニケーション技術はインターネット革命と英語の世界言語化で世界をつなぐ。

(先進国の成長の鈍化→投資フロンティアの消滅からくる)資金の移動の自由化(国民国家にあれこれ言われずに投資と回収ができること)と、IT革命の二つがグローバリゼーションの原動力。


付加価値は労働側よりも資本側に配分されるようになった。 景気回復が雇用者報酬の増加につながりにくくなったから、家計の購買力を高めるためには資産価格の上昇以外にはない。

この後、水野氏は「デフレ下の方が金利と逆比例関係にある資産価格が上がるから、景気は回復しやすいのである。(中略)インフレでないと景気が回復しないというのは「大きな物語」が続いていることを前提とした話である」とおっしゃるが、人々がデフレ末期にデフレが終わる(資産価格がもう下がらない)と確信した時点で低金利が追い風となって資産価格が上昇し始めるのではないだろうか...。


伝統的な貨幣数量説

資産と資産の交換をしても所得(GDP)は増えないが、資産取引にも貨幣は使用され、資産取引の比重が大きくなったから

  • M・V = P1・Y + P2・A

Mはマネーサプライ、Vは流通速度、P1は一般物価水準、Yは実質GDP、P2は資産価格水準、Aは資産取引額
実体経済の供給力が増えたので実体経済に投資するよりも、資産市場にマネーを投じたほうが早期に高いリターンを得られるから、世界の過剰なマネーは資産購入に向かう傾向を強める。 従ってMを増やしてもP1ではなくP2が増える。


労働分配率 = 実質賃金 / 労働生産性
労働生産性 = 一人当たりの実質GDP
名目GDP = 名目付加価値 = 人件費 + 営業利益 = 労働の取り分 + 資本の取り分