雑誌 Voice 12月号の藤巻さん

楽観vs.悲観という今月号の企画で、テーマは「金融資本主義」。
全文はこちらこちらにも。


Voice (ボイス) 2008年 12月号 [雑誌]

Voice (ボイス) 2008年 12月号 [雑誌]


JPモルガン・チェース中央三井トラストの直近の利益を比較して、大幅減益といっても米銀は「腐っても鯛」と藤巻さんはプロパガンダっぽく主張して、スタート。

藤巻さんによれば、今回の金融不況はこれまでの金融資本主義の凋落を意味するものではなく、単に技術的な問題である。


会計制度
バブル崩壊時、簿価会計だった日本は損を出したくなかった経営者が損きりをしなかった溜まった膿が表面化せず十数年も景気が低迷した。
時価会計では、流動性が消滅した市場では合理的な将来価値とはまったくかけ離れた値段が決まってしまう。 不良資産が「バナナの叩き売り」価格で売却されればそれが唯一の市場価格となり、他社もこの不合理な価格で同種の資産を評価せねばならず、巨額の評価損の計上という負の連鎖のスタートになる。
米国政府の公的資金による銀行の不良債権購入の意義は、「バナナの叩き売り」を回避することにある。 米政府は入札で安値から買うにしても「バナナの叩き売り」価格では買わないだろう。 合理的な範囲の価格で購入するだろう。


サブプライムローンの問題
藤巻さんによれば

  1. サブプライムローン証券の価格を高くミスプライシングした
  2. 流動性が枯渇したときの時価会計に大きな欠陥があった

決して米国金融システムの根本的問題ではない。


デリバティブのせい?
デリバティブ(自動車)という道具が悪いのではなく、使い方(酒を飲んで運転する)を間違えただけ。
近年の新興国の成長はデリバティブの発達により金融市場が大きくなり、新興国までおカネが回るようになったから。 デリバティブを否定することは「貧しい国は貧しいままでいろ」と主張することに等しい。


実体経済に比べ金融取引が巨大化したことは問題?
金融取引の拡大は社会にとって弊害よりはメリットのほうが大きい。

  • 市場の透明度が高まり、買占めなどの意図的なマーケット操作をしにくくなる
  • いろいろな考えの人がマーケットに参加すればそうそう極端には振れない
  • デリバティブの発展は伝統的な投資家とは違うモチベーションが生まれ市場の一方通行を防止する
  • 日本ではデリバティブが十分に発達しておらず、多様性が無く、金融市場がまだまだ未発展のため、先進国の中で一番株価が下落したのではないか
  • マーケットが大きければこそ、極端な大不況や大好況も起こりにくくなる


時価会計やROE,ROA経営が悪い?
時価会計の目的は、(1) 簿価会計による企業の粉飾を防ぐ (2) リスク管理をしやすくする。
日本のバブル崩壊時には、まず不良債権、次に持ち合い株の下落、さらに保有する土地の下落、と底なし沼的に銀行のバランスシートが劣化した*1。 今回の金融不況ではアメリカの銀行はサブプライムという不良債権さえ処理すればそれで終了する。
製造業の工場用地も保有せずに借りればよい*2。 土地の所有は不動産会社など本業に任せればいい。 製造業は本業に集中すればいい。


スワップへの無知
CDSの想定元本の総額の巨大さを問題とした識者には、スワップの知識がなかった。 これが問題である。 識者の誤った知識に基づく分析がマーケットに恐怖感を醸成した。

山形浩生さんもマクロ経済の分野で一知半解な論者を嘆いている。
http://voiceplus-php.jp/archive/detail.jsp?id=75


藤巻さんは「金融資本主義」に関して楽観派とすれば VS.相手は「金融資本主義でしゃばりすぎ、デリバティブなんてもってのほか」論の原丈人さん。
原さんの議論は私にはロジカルじゃないような気がするのだが....。

*1:その結果、金融仲介機能が麻痺して実体経済に悪さした

*2:中国に進出した製造業は工場用地を地方政府から借りているハズ。