「資本主義は嫌いですか」 読書メモ その3
藤巻さんは「米銀の株価をみよ」と言いますが、そのロジックは宿題(自分で考えよう!)でした。 この本の第3部で、そのロジックを自分なりに理解することができました。
- 作者: 竹森俊平
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2008/09
- メディア: 単行本
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「市場が流動的」とは、「現金を手に入れやすい」状態、すなわち、「カネを借りたり」「資産を売ったりする」のが容易な状態。 「カネを貸したい」「資産を買いたい」人が豊富な状態。 つまり、投資意欲が高まっている状態。
金融機関の行動
- 金融機関の投資意欲は時価評価したバランスシートに左右される。
- 金融機関はROEを稼ぐために自己資本規制率までレバレッジを引き上げる。
- 金融機関が保有するリスク資産の価格が上昇すると、時価会計ではバランスシートの改善が起きる。 リスク資産の価格上昇分は自己資本の増加となり、レバレッジを目いっぱい使うためには 自己資本増加分×レバレッジ ぶんのおカネを負債で調達しリスク資産を更に買う(投資する)。 リスク資産の需要増がリスク資産価格上昇をもたらす。
- リスク資産価格が下落すると、時価評価ではすぐにバランスシートの自己資本の減少として反映され、自己資本規制にあうよう資産を売り負債を縮小する。 リスク資産の売りの増加がリスク資産価格下落をもたらす。
時価会計はリスク資産の価格変動の拡大要因である。
金融機関の資金調達は、「現先(レポ)、後日の買戻しの約束で証券を相手に売る」*1。
銀行が中心の金融システムでは「マネーサプライ」が「過剰流動性」の指標だったが、ファンドが中心のシステムでは「現先」が「投資意欲」の指標となる。
流動性(現金)が不足している状況で、流動性に欠ける長期資産を処分しようとすると、買い手が保有する流動性のレベルまで価格を下げねばならない。 市場価格はファンダメンタルズを下回る価格となりえる。 誰かが投売りを迫られて流動性の結果としてついた安い市場価格が時価会計の金融機関のバランスシートに影響し、パニックが波及する。
マーケットに十分な「流動性」が無い場合、時価会計は危機の連鎖反応を起こす。
藤巻さんが「バナナの叩き売り価格」というのは、流動性不足の市場でファンダメンタルズを下回る価格のこと。
2種類の流動性が金融システム安定の鍵になる
金融機関がバランスシートにダメージを受けると2つの流動性が共に悪化し、悪化が更に相互作用を生み、流動性不足が悪化する。
危機の連鎖を発生させるメカニズム
- 時価会計
- 証拠金 (担保価値不足)
損失が拡大伝播するルート
- 金融機関の損失 → Fanding Liquidityの悪化
- 多数の金融機関のFanding Liquidytyの悪化 → 資金調達の減少 → 証券投資の減少 → Market Liquidityの減少 → 証券価格の(ファンダメンタルズを下回る)下落
- 証券価格の下落 → 現先で資金調達する際の証拠金の増加 → Funding Liquidityの悪化
- 証券価格の下落 → 時価会計による損失の計上 → Funding Liquidityの悪化
- Funding Liquidityの悪化 → 証券投資の減少 → Market Liquityの減少 → 証券価格下落 ...
「流動性」に応じて決まる価格シグナルは、経済における主体間の行動調整を「過度に積極的」あるいは「過度に消極的」のどちらかにする傾向がある。 資産価格は過剰流動性でファンダメンタルズから乖離してバブルになる、流動性不足でファンダメンタルズを下回る価格にもなる。
藤巻さんは、今後の景気を予測するにあたり、「米銀の株価を見よ」という。
そのロジックは
- 米銀のバランスシートの自己資本の将来の期待が、米銀の株価に反映される。
- 米銀の自己資本が厚くなっていくならば、米銀のバランスシートは拡大する。 つまり、貸出や証券投資が増える。
- 貸出や証券投資が増大するならば、実体経済におカネが回るようになり、景気は回復する。
従って、森羅万象(一般に市場は賢い)を織り込む米銀の株価の動きに注目すればいい。
金融という経済の要ではあるが一般人にはなかなかわかりにくいところを、「要」の将来の期待を反映する株価でモニタすればいいという藤巻さんのアイデアは本当にスゴイと思います。
*1:証券を担保に借りることと同じだが、バランスシートが膨らまないところが嬉しいのかな。