「経済を動かす単純な論理」

多忙で教科書を読む気力が出ず気楽な読書に逃避していました。


経済を動かす単純な論理

経済を動かす単純な論理


テーマは2つ。

  • リスクと大数の法則と情報
  • 利子率と成長率とバブル(資産価格)


さて、著者は

金融システムが強くてしっかりしていると、資金需要は強く、実質金利は高くなる。 逆に、金融システムが弱いと、資金需要は弱いので、実質金利は低くなる。

という。 「金融システムが強くてしっかりしている」とは金融機関が目利きでリスク管理能力が高いこと、とのこと。
金融仲介機能が効率的に働けば実質金利は低くなると考える私は、一瞬???。
金融仲介機能が非効率だと、預金金利と貸出金利のスプレッドが大きく、効率的だと小さくなるハズ。 金融機関が目利きならば、低リスクな事業には低金利の資金が供給されることで経済が成長し、その結果、資金需要が増加し、(実質)預金金利も上昇する。 こういう意味かな。


著者は「バブル」という言葉を広義に使っています*1が、「バブル」を「資産インフレ」or「資産価格」で置き換えると、私には自然な感じえす。 以下は、読書メモ。

  • 戦後の日本の経済発展は、銀行中心の金融システム & 地価の上昇を前提とした土地担保融資に支えてきた。 戦後、1990年代の前半までの一貫した地価上昇による担保価値の上昇に支えられた銀行貸出が、自己資本の乏しい日本企業の設備投資を支えてきた。 土地担保融資は、成長期の日本経済にあって、いわば日本経済の成長を担保とした貸出しとして、経済と金融の好循環を演出したといえる。
  • 経済が成長すれば、株式や土地などの資産価格もその成長率とだいたい同じ率で上昇するだろうということは推測できる。 --- 私もそういう気がします*2が、明確な説明を知りたい...。
  • 「利子率 < 成長率」が成り立つ経済ではバブルは発生する
  • 経済成長率が高まるほど、バブルの購買力は高まり、バブルの価値は高くなる。
  • 好景気が失速した景気の踊り場でバブルが生まれやすい。投資資金は豊富にあるが良い投資先が無いため。金余りの資金が行き場を求めてバブルを作り出す。
  • GDPとバブルは同じ率で成長すれば、バブルは長続きする。バブルがGDPを越えて成長すれば破裂する。
  • バブル経済では、経済全体のバブルの総和がGDP成長率と同じ率で成長する。ある資産のバブルがはじけると別の資産がバブルになる。
  • アジア通貨危機以降、アジア諸国の過剰貯蓄が、アメリカの国債に向かい、低金利で潤沢の資金をファイナンスできる金融機関がバブルを生み出し、つまづいた。
  • 市場(金融システム)が未発達だと、企業はいざというときに資金調達できない恐れがあり、企業は予備的貯蓄として内部留保を溜め込む傾向がある。
  • 貯蓄率の決定要因は構造的要因が強く短期には変化しにくいので貯蓄率の違いは続く。 経常収支の不均衡が長期にわたって続くことはありえる。 つまり、赤字国は無理に経常収支を均衡させる必要は無く、借金の支払い金利のうち、成長分は先送りしてもかまわない。
  • バブル資産を売り抜けられると人々が信じれば、バブルが発生する。
  • 日本のバブル 不動産バブルの崩壊 → 大量の不良債権の発生 → 金融システム不全 → 長期停滞。 日本の金融システムは銀行貸出が主体だった。
  • 日本経済が 利子率 < 成長率 となりやすい要因
    • 貯蓄率の高さ
    • 国内の投資先の収益率が低いにもかかわらず資本が海外に流れない(為替レートの円高基調、海外情報の疎さ)
  • 土地の貨幣機能 --- 土地担保融資で流動性の高い資産になる、銀行信用を引き出す機能。
  • 日本のバブルの置き換え --- 土地の時価総額が減少したぶん政府債務が増大。土地需要
  • 国債発行による財政支出拡大であらたな国債バブルが不動産バブルを置き換える。 その過程で土地を保有する企業や銀行の資産内容を悪化させるので、財政支出が貸出増・投資増につながらない。
  • バブル崩壊で危機回避的となった投資家が国債を強く選好し、土地・株式から資産代替をしたから、地価が下がったとも言える。

バブルが存在しやすい構造

  • 高貯蓄率
  • 金融システムの効率性の低さ
  • 資本市場の閉鎖性、ホームバイアス

バブルの崩壊

  • 高齢化に伴う貯蓄率の低下
  • 金融システムの整備 → 経済性能のほかに実質金利の上昇をもたらす

各国の大規模な金融緩和の結果、利子率 < 成長率 の図式はそう簡単には変らない。
財政支出の効果が弱くバブルが不動産・株式から国債に向かうと、リスク資産価格の下落で企業・金融機関の資産内容を悪化させ、不景気を長引かせる。
貨幣がバブルの受け皿になると、デフレとなる。


実に興味深い内容の本でした。

*1:ジャン・ティロール流に本来の価値よりも高い価格で取引される財を「バブル」と呼ぶ

*2:私の解釈は、経済規模がN倍になれば企業部門の売上や利益もN倍になり株価もN倍になる、経済規模がN倍になり(人口が一定ならば)家計部門の収入がN倍になれば家賃をN倍払えるしN倍の価格の住宅も購入可能となる、です。