「論争・デフレを超える」 2002年の論争を振り返ると part 1

論争・デフレを超える―31人の提言 (中公新書ラクレ)

論争・デフレを超える―31人の提言 (中公新書ラクレ)

I.. デフレと生きるか、デフレと死すか
II. 円安は救世主となり得るか
III ニッポン社会の構造改革
IV. インフレターゲットは特効薬か
IV. 提言


読み返してみた。
帯には「デフレと生きるか、デフレと死すか」「円安、インフレは救世主か?」とある。
7年後の今、振り返ってみれば、「デフレとは生きられそうもない」、「円安は効果がある」が結果だったのではないだろうか。


後知恵で意地悪を承知の上で、各氏の主張を読み返した。 (敬称略) 以下は読書メモ。青文字は私のたわごと。



I デフレと生きるか、デフレと死すか


真壁昭夫

80年代半ばまでは、個人消費GDPの60%、設備投資が15%だったが、85年〜89年は設備投資が20%となり、その後、設備が過剰となった。 高価格で入手した設備は競争力が無い、中国の経済的離陸で、高コストの日本の製品は競争力を失った。
80年代半ばまでは、生産要素のなかで労働力がボトルネックで、雇用を確保・維持する制度が経済的合理だった。 90年代以降、供給能力の過剰と中国との競争で、賃金の下方硬直性が問題となった。
労働コストを引き下げる方法

  • 名目賃金を固定し、物価を引き上げることで、実質賃金を下げる
  • 物価水準を一定にし、名目賃金を引き下げる
  • 円安でグローバルにみた日本の実質賃金を下げる

円安は企業収益Up、物価の下げ止まり、労働賃金の調整で短期的には日本経済にプラス。長期的には購買力が落ちるのでマイナス。--- 購買力低下といっても、ファンダメンタルズに見合うレベルへ低下だけではないか?
競争力を取り戻す方法は、究極的には技術革新で生産性を引き上げることで高コスト構造を変える。
生産性の向上に限界があるならば、インフレ、名目賃金の引き下げ、円安のいずれしかない。いずれにせよ、生活水準の引き下げ、長期低迷、縮小均衡に向かう。 --- (私の観察では)生活水準はジワジワと下落しているように見える。
生産性上昇&成長を望めないならば

  • 移民を受入れ人口を増やし、消費を増やし、競争社会を目指す
  • 国民負担率を増やし、安定した高望みしない国も目指す (でもその前に生活水準切り下げが不可欠だろう)


深尾光洋

デフレを放置すれば、国内の金融資産に対する不安からキャピタルフライトが始まり、円安・長期金利上昇・財政赤字拡大となり、財政インフレが始まる。--- 金融恐慌 → 財政赤字ハイパーインフレ というシナリオ
大恐慌のようになっても2/3ぐらいの人はそれほど困らず、弱い1/3が非常に苦しむのだと思う。デフレの場合、一人当たりの名目賃金はそれほど下がらない。むしろ雇用が減る。トータルの雇用が減ることで全体の所得が減る。 --- 幸い恐慌にはならなかったが、デフレは弱い立場の人をすごく苦しめることがよくわかった。
インフレターゲットを設定し、日銀はETFREITを大量に買うべき。それでもデフレが止まらなければ、安全資産に課税しマイナス金利を導入する必要がある。


都留重人

真の豊かさは、成長率を指標とするものではなく、生活の質を高めることで得られるという、”発想の転換”が必要だ。
地価が調整される過程が、実は不良債権を生んでおり、この点を認識しなければ不良債権問題は解決しない。
比較優位の劣る産業を減らし、比較優位の優れた産業を増やす、これが構造改革の一番重要な点だ。(しかし)、農村には自然な美しさがあり、(中略)、生活の豊かさという観点から考えるべきだ。 --- そうはおっしゃっても、デフレは政治的に弱い立場の人をボコボコにしちゃう。 この数年でわかったことは、デフレで名目値を下げて均衡させるのはとてもいけないこと、ということじゃないかな


西秦

相対価格と一般物価は分けて考えるべき。物価は貨幣的減少であり金融政策で解決できる、こういう見方が経済学では常識であるが、「両者には同時発生的な正確があると思う」。
経済が悪くなれば為替は安くなり、それで救われる面もある。日本の場合、貿易黒字が減っても所得収支の黒字がある限り経常収支の黒字は続き、為替レートの調整はなかなか起きにくい。
円ドル相場で言えば、1ドル145円程度でほぼ購買力平価に等しくなる。
いったん中国がキャッチアップを始め、安い賃金で同じ技術を使えるとなると、連戦連勝となる。360円時代の日本と同じ。完全雇用に達すれば人民元を上昇させる。 それまでは、中国製品の安い相対価格は一般価格にも影響する。
日本がまったく新しい産業に移らない限り、賃金は下がらざるを得ない。
日本の産業構造が一新されるまでの間、デフレをしのぐ必要がある。 --- 産業構造はなかなか変わらず、名目値を切り下げてしのいでいるうちに、生活水準が下がりつつあるというのがここ数年の現実か。
銀行は資本不足だが、利益から見れば資本過剰。銀行は早く預金という負担から逃れねばならない。それにはマイナス金利をつければよい。


高尾義一

当初は不良債権問題・資産デフレだけかと思っていたら、その処理を先送りした結果、一般物価のデフレが発生し、負債とデフレの悪循環に入ろうとしている。
デフレとともに生きることは不可能。
長期金利が上昇に向かえば、財政や金融機関に打撃を与えるため、強制的に金利を抑えるべく日銀の長期国債買い入れが増え、金利・物価が統制される。物価統制の結果、財政はさらに悪化し、日銀の紙幣増発で賄われるようになる。


富田俊基

第1次大戦後、国境のある経済だったが、冷戦終了で、19世紀のようにヒト・モノ・カネが自由に動く時代になった。
グローバルな産業構造の変化の結果、輸入価格が下がり、国内産業と競合し、インフレは終焉した。
ヒト・モノ・カネの移動が自由な世界で一国だけで物価をあるためにはそれらの自由を抑制せねばならない。2つの世界大戦と同じ轍を踏む。--- 金本位制の時代とペーパーマネーの時代は違うんじゃないの?。実質は変わらなくても名目価格・名目賃金がマインドに影響することが重要と思うが。
円安が進めば金利が上がり、国内景気が抑制され、投資機会を求めて更に資金が海外に流れる。 --- これ、金本位制あるいは固定相場制のころの話では?。


小野善康

需要が危うくなっているので経済が停滞している。需要を更に冷やし、潜在成長率を上げようとすると、経済の縮小均衡と失業の拡大均衡が起きるだけ。
不良債権処理は銀行が抱えていた負債を国民が肩代わりすること。そうすれば銀行が積極的になるかもしれないが、国民はそのぶん取られるので需要は増えない。
景気を回復させるには、需要を作る。経済政策の究極の目的は労働資源の有効活用。意味のある公共事業をやれ。


野口悠紀夫

中国の製品の品質が上がり、日本製品と競合するようになった。輸入価格が下がると全体の物価が下がる。 貨幣的な現象ではない。 実物てきな変化がなければ対応できない。 金融緩和を推し進めれば、貨幣的にデフレは解決するが、実質てきには何も変わらない。 --- 産業構造が変わらなければインフレでもデフレでも生活水準は下がると思うが、産業構造を変えるためにはデフレよりもインフレのほうが容易と思う。
日本がやるべきは、経済構造を改革し、中国と分業体制を作っていくこと。円安で助かるのは伝統的な輸出産業。円安で伝統的な産業を温存することは望ましいことではない。 --- 輸入と競合する産業も影響を受けるから、為替の影響範囲はかなり広いと思う。
集団主義的な経済の仕組みが経済構造の変化を妨げている。90年代以降続く経済の低迷はバブルの後遺症ではなくより根本的な問題だ。日本経済の構造が新しい状況に対応できず、企業の収益力が低下していることが全ての原因。 収益が期待できないから投資が増えない。長期的に所得が増える見込みがないから消費は伸びない。 新しい経済構造に変わることによってしか新しい雇用は創造できない。 --- 収益も消費も期待できないならば、輸出で稼いだ金やこれまでの貯蓄を円で貯蓄しようとしてもリターンがつかず海外に流れるべきなのに(そうなれば円は安くなる)、国内に溜め込もうとするから円が上がり高コストになり収益がますます悪化するのではないか。
贈与税相続税を強化すべきだ。資産を持っているのは高齢者なので、子供に資産を残せないと思えば消費は増える。 --- マネタリーにインフレになれば同じことがおきると思う。


I.. デフレと生きるか、デフレと死すか
II. 円安は救世主となり得るか
III ニッポン社会の構造改革
IV. インフレターゲットは特効薬か
IV. 提言