「論争・デフレを超える」 2002年の論争を振り返ると part 2

論争・デフレを超える―31人の提言 (中公新書ラクレ)

論争・デフレを超える―31人の提言 (中公新書ラクレ)

I.. デフレと生きるか、デフレと死すか
II. 円安は救世主となり得るか
III ニッポン社会の構造改革
IV. インフレターゲットは特効薬か
IV. 提言
以下は私の読書メモ。青文字は私のたわごと。


II 円安は救世主となり得るか


アラン・メルツァー

デフレとは中央銀行が供給するよりも多くのマネーを人々が手元に起きたがっていることをいう。人々がマネーを手元に置いているために、物価が下落している。それをやめればデフレは止まり、消費は増える。

中央銀行がデフレが止まるまでマネーを増やし続ける、と人々に確信させればデフレは止まる。

日本で最も人気のある資産は現金だった。物価が下がり現金の実質的価値が上がったから。人々がもし、住宅や土地の価格が明日上がると思えば、保有資産を現金から住宅や土地にシフトするだろう。人々の期待を変えなければならない。

粘り強く中央銀行は本気だということを言い続けねばならない。

短期国債金利はほぼ0%で現金と違いが無い。長期国債か外債を購入しマネタリーベースを拡大させるほうが望ましい。

中央銀行は、ゼロ金利の貨幣を発行し、金利のつく資産を購入する。貨幣発行コストはほとんどかからない。 中央銀行は常により多くの収入を得る。

仮に国債価格下落で損失がでても、結局だれかが損失を抱えねばならない。それならば、民間銀行よりも中央銀行で損失を抱えるほうが良い。中央銀行は自らの利益よりも社会的責任を優先させるべき存在だから。

貸し出しを増すためには、良い借り手の存在が必要だが、貸出重要が無い場合、いくら金融市場に流動性を供給し日銀当座預金残高を拡大しても、大きな変化は起こらない。 銀行部門を経由する必要の無いルートを試すべきではないか。それが外国為替市場だ。 --- 今、これを読むと、すごく説得力がある。03年ごろの政府の巨額な為替介入はコレをやり、為替の経路は効果があったと思う。

日本は(物価調整後の)実質為替相場の調整が不可避な状況にある。日本は非常にモノの価格が高い国になってしまった。結果、輸出は振るわず、輸入と競合する領域も振るわない。名目の為替相場が調整しないならば、日本国内のモノの価格が変るしかない。だからデフレになっている。
デフレは実質為替相場が自ら調整しようとしているサイン。円の実質為替相場を調整するには

  • 名目の為替レートを下げる(円安)
  • 国内の物価が下がる

この二つしかない。どちらがより痛みが少ないか。名目為替レートの調整は近隣窮乏化策ではない。市場が調整を求めている。
日本がデフレに陥ったのは為替相場が調整するのを嫌い、最近まで1ドル=120円近辺に釘付けにしていたからだ。

円が下落すれば韓国政府・中国政府・米国議会は文句をいうかもしれないが、所得効果で日本の輸入も増える。

物価が十分に下がれば人々は資産を買い始め輸入も減り、いずれデフレは終わる。しかし、それには何年もかかり、恐ろしいほどの痛みを強いるだろう。


ベネット・マッカラム

金利が0%のもとではマネタリーベースを拡大させるだけでは不十分だ。日銀が(現金と代替可能な)短期国債を買って現金を供給しても何も起こらない。現金と代替性の低い資産(長期国債、外債)を買わねばならない。外債のほうが効果的。その理由は

  • 現金との代替性が長期国債よりも低い
  • 為替市場を通じた景気刺激効果が期待できる

長期国債購入はしないよりもマシだが、外債購入のほうがはるかによい。現行日銀法でも43条で外債購入は可能。円安はいったんは輸入を減らすがすぐに所得効果が働き(景気が良くなり)輸入を増やす。これは為替政策ではなく金融政策。金融政策を日本国民と日本の産業にとって良い方向に使うべき。為替相場の水準は市場に任せればよい。--- なるほどね。金融政策を財務省が担当していたのか。
円安による購買力低下は短期的な効果でしかない。まず不況から抜け出すことが重要。日本の所得が増えればGDPが増加し始める、株式市場にとって買い材料だ。--- 藤巻さんはかつて為替レートに注目せよとコメントしていた。

日銀の外債購入が政治的問題であることは理解できるが、そうした障害を乗り越えなければ、失われた10年がもう10年続くことになる。


小宮隆太郎

マネタリーベース = 日銀当座預金+日銀券
マネーサプライ = M2+CD = 民間銀行の負債 = 企業や家計にとっての資産
民間同士の取引の結果がマネーサプライであり、民間の主体がその気にならなければマネーサプライは増えない。民間がカネを使おうとしないのが今の日本であり、マネタリーベースを増やしてもマネーサプライは増えない。
不良債権で銀行部門が機能不全なのでマネタリーベースを増やしても景気は回復しない。
変動相場制で経常黒字国が通貨を下げてもっと黒字を増やして景気を回復することは国際的に通用しない。各国政府は困ると言うに決まっている。様々な条件を総合的に考えないと政策はできない。 --- とは言え、「政治的に不可能」と経済学者が思考停止してしまうのも困るのですが...。


ヒュー・パトリック

長期低迷、デフレ、ゼロ金利、巨額な財政赤字、これらは70年代後半から始まった日本の隠れた構造問題 過剰貯蓄と消費不足が引き起こした必然的な帰結。--- 過剰消費と消費・投資不足のギャップが経常黒字だが、黒字を円で蓄えようとすることも深刻な構造問題なのでは。黒字を海外へ還流すれば円高に苦しむことはないのだから。
解決するためには、経済に対する消費者の信認を取り戻す必要がある。短期的には需要刺激策で景気を回復させ、長期的には供給サイドの構造改革で競争力のある経済を実現させる。
円安は、米国や中国がどの程度容認するかだ。
金融政策は効果を発揮するまで時間がかかる、短期的刺激として財政政策をすべき。--- ??? 逆ではないの。


I.. デフレと生きるか、デフレと死すか
II. 円安は救世主となり得るか
III ニッポン社会の構造改革
IV. インフレターゲットは特効薬か
IV. 提言