成長信仰の桎梏 消費重視のマクロ経済学 4章
- 作者: 齊藤誠
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2006/12/08
- メディア: 単行本
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を読むとナルホド!というマクロ経済学的論理展開を学べ非常に面白い。
さて、巨額な政府の累積赤字の解決に「低金利」と「高成長」を組み合わせが安倍政権の経済政策のようですが、この政策は経済にどう作用するだろうか。
4章 「伝統的な政策発想のどこが問題なのか」 (137ページあたり)を見ると...
政府の長期の予算制約*1は、
名目国債残高 / 名目GDP = プライマリーバランスの対名目GDP比 / (名目利子率 - 名目GDP成長率)
Note: プライマリーバランス = 税収 - 国債元利利払いを除いた政府支出
名目金利を低く、名目GDP成長率を高く誘導できれば財政赤字は何とかしのげそう。名目利子率 < 名目GDP成長率 ならば、プライマリーバランスがマイナス(財政赤字を出し続けても)でも何とかなりそうに見えます。魅力的ですね。
Note : 一方、藤巻さんが懸念するロジックは、名目利子率が跳ね上がれば税収の大半が利払いに消え、あわてて増税しようにも国会審議&法改正のタイムラグがあるため、高金利の更なる借金で財政を賄い始め財政赤字が加速的に急増し破綻する(ハイパーインフレに至りかねない)、というものです(たぶん)。
さて、名目利子率を低めに名目GDP成長率を高めに誘導すると何が起きるか?。
物価上昇の影響を取り除くと、名目利子率 と 名目GDP成長率 の比較は、実質金利 と 実質GDP成長率 の比較に対応する。理想的な経済成長の経路では
実質金利 = 時間選好率 + 技術進歩率
実質GDP成長率 = 技術進歩率
に収束する。したがって、理想的な長期均衡状態では実質金利は実質GDP成長率を時間選好率ぶんだけ必ず上回る。
それを、物価上昇率を加速する一方名目金利を低めに誘導すれば、実質金利*2を時間選好率以下に押し下げ、マクロ経済は過剰貯蓄経路に陥る。
国債残高比率の低下の要因となる低めの実質金利は、低生産性の投資プロジェクトでも資金調達を可能とし、実質金利の低さを資産価格上昇で補う資産価格バブルを生じさねかねない。そして、いったん資産価格バブルが形成されればその崩壊を通じてしか本質的な解決は図れない。
以上がマクロ経済学のロジックです。更に、斎藤教授は
それにしても、先にも触れたように、議事録で将来に記録がしっかりと残るような政府の経済財政諮問会議の場で、中・長期的なビジョンについて名目成長率が名目金利を上回るようなシナリオが議論されたこと自体、マクロ経済政策の発想の根深いところに深刻な問題があることを象徴している。
と手厳しい。
JPモルガン証券の北野一さんはレポート(マネックス証券)で、この政策が実施されるか否かは支持率しだいと述べています。