コンピュータ、生産性、ディジタル組織
IT投資をしてもたいして生産性が上がらないように見える、という意見に対し、なぜそう見えるのかか?
- 作者: エリックブリニョルフソン,Erik Brynjolfsson,CSK
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2004/05/01
- メディア: 単行本
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によると...
蒸気機関の時代から電気モーターの時代になっても生産性が飛躍的に向上するまでに30年から40年かかった。
蒸気機関の動力を伝達する都合上、当時の工場は蒸気機関を中心に作業フローとは関係なく動力伝達優先で機械を配置した。 電気モーターが登場しても、蒸気機関を電気モーターに置き換えただけだった。
その後、1世代経ち人が入れ替わり、工場の作業フローにあわせ機械と電気モーターを配置するようになり、生産性が飛躍的に向上するようになった。
つまり、新しいテクノロジーにあわせ、新しい仕事のやり方が見出されることで、生産性は大きく向上する。
IT投資も同様。ハードウエアとソフトウエア投資よりも多くの金額をかけてITを生かすような新しいやり方を創ってはじめて生産性は大きく向上する。 紙の時代の仕事のやり方そのままでITを導入してもダメ。 それが出来る会社はIT投資ですごく生産性が上昇し、出来ない会社はたいして生産性が上がらない。 *1
日本のIT投資がアメリカに比べ少ないから生産性が低いという議論もあるが、IT投資を生かすような仕事のやり方を創造するのが苦手だから低生産性という要素もあるのではないか。
ちなみに私が勤務する会社も、紙時代のやり方にITをあわせようとする傾向が強い。今のやりかたが時代にそぐわなくなりつつあっても...。
この本を読んでいて、たまたま八木博さんの「八木博のシリコンバレービジネスブログ」のココを読み、ナルホド!とおもった。 日本は組織の階層を維持したまま人数を減らすスリム化を指向し労働生産性を上げ、アメリカは組織を作り変え階層をフラット化しつつ暗黙知を形式知に変えて知的生産性を上げるとのこと。
アメリカは組織を変え易いためIT投資を活かすような仕事のやり方を創れるが、日本では組織構造を変えるのがすごく大変なのでIT投資を活かすような仕事のやり方ができず、結果として低生産性となるといえるのかも。
この差はどこから来るのだろうか? アメリカの会社は株主のものだから、株主に雇われた社長は株主の為に働くが、日本の会社は従業員のものとすると一番無害?な人が神輿として担がれて社長になる日本では、社長は従業員共同体の為に働いても不思議ではない。 人間だれだって変化を強いられるのはあまり好きじゃないから、日本は変化しづらいのかも。 強いインセンティブがあれば別だろうが。 --- こう考えると、デフレ時代には日本ではいっそう変化できず、景気が良いときには変化しやすい*2というポジティブ・フィードバックで作用するのかも。
変化の過程で仕事がアウトソースされてしまうこともあるアメリカと、目先はよいがジワジワとグローバルにみて相対的に貧乏になっていく日本、どちらがいいだろうか。
たわごとはともかく、この本の重要なメッセージは、生産性にはテクノロジーのイノベーションだけではダメでそれを補完する業務のイノベーションが必須、ということ。
*1:生産性が高い会社は市場価値も高い。 業務プロセス創造に投ずる金は財務上は資産にならないので、そういう会社のトービンのqは大きくなる。
*2:ただし「回復すると忘れてしまう」というロバート・フェルドマンの指摘も有る。