日本国の原則 by 原田泰

日本国の原則―自由と民主主義を問い直す

日本国の原則―自由と民主主義を問い直す

ロジカルなエコノミストである原田泰さんによる日本の経済成長と戦争の関係を論じた本で、経済成長が生じたり停滞する理由とか「なぜあのバカな戦争を始めたのか?」に興味をもつ私には非常に面白かった。 エコノミストインセンティブを切り口に歴史を分析すると、伝統的?歴史観とは異なる解釈が現れ、それがとても自然なですわりがいい。
以下は個人的メモ。

  • 村は武装し、近隣の村々と武力で争っていた。村々だって武力闘争はしんどく、調停する存在として戦国大名が出現した。ここで権力には暗黙の契約関係が成立した。
  • それが発展し、安全と自由と幸福を与えることが権力に正当性を与えるという思想に発展した。さらに天という上位概念が発明され、支配者も天に使えること(統治は支配者の恣意ではできないこと)が要請されるようになった。
  • 権力の行使が規則化されると、人々は権力の行動を予測できるようになり、安全に働き、財産を得、自分自身の楽しみに使えるようになり、文化が栄える。 (江戸時代)
  • 明治維新の指導者たちは、欧米を富強にしているのは機械の力ではなくその機械を生み出し使いこなす社会のありようと直ぐに気づいた。人々が封建社会のくびきにとらわれていたのでは富強を自らのものにできない。人間は自由でなければならないと認識した。日本は自ら身分制秩序を破壊し、人々は自由に仕事を選べるようになった。才能は自由から生まれると理解したからだ。
  • 領主が仁政をしないときにどうすればよいか?。議会制民主主義を使えばよいことが直ぐに理解され、封建政治から立憲君主制の国になった。これにより、私的所有権は安定し、課税は少なく、政府の市場への介入は少なかった。日本の経済発展は政府主導ではなく民間企業家の工夫による。
  • 明治維新以来、安全と自由の拡大によって日本は順調な経済発展を続けた。
  • 明治維新によって資本主義と帝国主義の時代になり、人々には市場での利益(出世)と戦場での利益(出世)という2つの選択肢が与えられた。
  • 市場経済と資本主義は人々を豊かにするが、ある人が豊かになれないのはその人に起因することになるため自身を恥じることになる。これが反市場経済,反資本主義を生み出す。
  • 経済発展の結果、また第一次大戦には(ほとんと)参戦しなかった結果、軍人の地位が低下した。ここに反市場経済・反資本主義が結びついた。
  • 昭和恐慌は市場における成功という概念を打ち砕いた。リフレ政策で恐慌から経済は回復したものの、人々は回復は満州事変によるものと理解した。満州事変は僅かな兵力で満州を手に入れた。この石原莞爾の成功を目の当たりにし軍人たちは自分の成功を追及し始め、深みにはまっていった。
  • 軍は経済を統制し総力戦を戦うための生産増を目論んだが全然成功しなかった。満州の開発もペイしていない。
  • 第二次大戦後、再び自由となり高度成長したが、70年代以降、経済成長が停滞した。工場等制限法や公共投資で地方に無理やり仕事を作るようになったからである。増田悦佐さんの 高度経済成長は復活できる (文春新書) によれば自民党田中角栄という社会主義者(おそらく本人も認識していなかったに違いない)にのっとられ社会主義革命が起きたからとのこと)
  • 国民の生活水準を決めるのは国内産業であることを忘れて、輸出製造業の生産性上昇に熱中するようになった。その理由は、例えば、卸・小売業の生産性上昇には雇用問題が付きまとうが、輸出製造業の生産性上昇には(外国での雇用問題は起きるが)国内の雇用問題は起きないからである。輸出部門は経済全体のわずかな部分にすぎない。この部分の生産性を向上させて日本国民の生活水準を向上させようとする戦略はもやは限界にきている。
  • 新たな技術的ブレークスルーが期待されているが、社会的調整コストが小さい産業はたいした産業ではない。経済を発展させるものは,技術以上に社会のダイナミズムである。
  • 経済は技術進歩と資本と労働の投入によって成長する。技術進歩率が低下していないのに実質経済成長率が低下したのは資本と労働の投入量が低下したからだ、その原因は主としてデフレで労働と資本コストが高くなったからだ。物価がさがっても名目賃金をさげることは難しいし金利はマイナスにならないため。
  • 自由な市場への政府の介入が成功したことはない。石油ショック以降、豊かになった日本人はダイナミックな競争よりも政府の介入による安定を求めるようになった。その過程で70年代にも残っていた戦時統制体制の残滓が利用された。70年代以降の日本経済が成功に見えたのは、欧米先進工業国が停滞し、中国とインドが社会主義で低迷したからである。70年代以降の日本経済は輸出製造業というごく一部の分野で成功していたにすぎない。


「デフレで労働と資本コストが高くなり投入できない」から景気が低迷してるならば、労働と資本コストを安くすれば景気は回復するわけだから、

  • 円を安くしてグローバルにみて労働コストを安くし、
  • 円安で日本の資産の割安感を出すことでグローバル投資家の買いが入ることで円建ての資産価格が上昇することで資産デフレ期待から資産インフレ期待に転ずれば円でみた資産コストを下げられる

というのが藤巻さんのロジックですね。