直伝 藤巻流「私の個人資産」運用法
- 作者: 藤巻健史
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/11/21
- メディア: 文庫
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読み返していました。
藤巻さんの個人ポートフォリオ(藤巻さんの長期のポジション)
の背景は 「政府の巨額な財政赤字を鑑みると政府・日銀の政策は(うまくいった場合)コントロールされた長期的なインフレ、(ヘマをやらかすとか運が悪いと)ハイパーインフレなので、不動産・株・外貨(ドル)建て資産を持つ」 と比較的容易に理解できる。
しかし、藤巻さんは長期だけではなく中期的にも日本の景気回復にすごく強気だった。 そのロジックは、(1) 資産効果と、(2) GDPに対する為替の効果と、(3) 海外投資家にとっての割安感と思惑の効果 ... かなあー... と2年前は心もとなく理解するだけでした。 当時は景気回復のロジックをもっと明確に理解したいと思っていましたが、今、読み返して見ると、この本のテーマは
- 景気(GDPの成長率)に対するリスク資産(株・土地)価格の効果
- リスク資産価格と為替レートの関係
だったことが、やっと今になって明確にわかった。この2つをわかるように説明するのに藤巻さんはすごく苦労していたのだ。プロパガンダで「資産効果」を何度も吹き込まれミシキンの教科書で資産価格の効果を何度も読んだせいで景気とリスク資産価格の関係を自然に納得できるようになったが、日本の教科書には書いてないので当時はピとこなかった。
以下は、メモと私のたわごとです。
資産価格は景気に大きく影響する
「『所得水準』ではなく『資産価格』が個人消費を決める」と思っているのである。
(中略)
トービンは、マネタリストに比べて、資産価格の役割を重視している。「資産価格の下落は人々の富を減らして消費意欲を減らすだけでなく、新たな投資へのインセンティブを減らす」というのがトービンの「qの理論」である。
日本のエコノミストは資産価格の景気への影響を軽視する。 マスコミの論調には注意。 藤巻さんは不動産価格を観察する。 路線価や公示価格では地価変動時には本当の価格は分からない。 不動産取引をやっていないエコノミスト・アナリストや政府・日銀の担当者は間違える。
学部向けマクロ経済学に出てくるケインズのモデルでは消費は所得だけの関数として扱っているが、先進国の中産階級以上はライフサイクルを予測・見通した上でも消費しているとハズ。 所有する資産の価値がモノやサービスよりも上昇すれば、人生の後半のための貯蓄する必要が減り、今の消費が増える。
- 個人の消費 vs. 貯蓄での資産効果
- 企業のトービンのqの経路での投資への効果
- 企業や個人の借入への自信
- 企業や個人への貸し出しにおける担保の効果 (担保が大きくなれば貸せる額も大きくなる)
「90年代以降の世界の高成長の要因の一つは不動産価格の上昇」
文庫版原稿執筆時点では
サブプライム問題のおかげで、本来は市場の資金を吸収しなければいけない時に、流動性を逆に供給してしまったという事実がある。 (中略) したがって、更なる資産インフレの確率が高まったと考えられる。
その資産インフレも穏やかなものではなく、バブル時の」ように急激なものになるリスクが出てきた言えよう。
その後、米国の一部の地域の不動産価格が下落したとか、サブプライムを組み込んだ証券が下落したとかで、藤巻さんは日本のバブル警報を注意報に引き下げ、米国のゴールデンシナリオ説をプロパガンダ中。
日本経済に対する超悲観論が悲観論に変わると、先物でショートしていたヘッジファンド等がポジションを閉じるために買い戻した。 これによる株価の上昇は資産効果をおこし、実体経済に作用し始め、楽観論につながっていく。
為替と資産価格
日本が15年間にわたり不況だった大きな理由は、実体経済以上に円が強すぎたからである。 このため国際競争力が落ち、資産デフレが起きた。
円が強すぎたから
- 製造業の製造現場(人を沢山雇用する)が海外に行っちゃった
- 農業も同じ、輸入農産物が勝った
- 国内のサービスと海外旅行との比較で、海外旅行が勝った
その結果
- 土地が余り、地価が下がる → 逆資産効果で景気にマイナス
- 国内のビジネスが縮小し、株価が下がる → 逆資産効果で景気にマイナス
- 雇用が減る、賃金が下がる → 所得減少で家計の消費や住宅投資にマイナス
- 不況の期待(予測)で、資産価格も所得も上がらない
円が弱くなれば逆回転で作用する。
ところで、ドル/円が上昇すれば、米国の懸念材料であるインフレ、日本の懸念材料であるデフレが収まる。 両国の資産価格、経済にも望ましい。 両国政府の政策目標にも一致している。
と藤巻さんはプロパガンダする。 先日のG7で日本は「適切な政策をとる」ことを約束した?ようですが、財政政策も金融政策も無理な日本には為替政策しかなのでは。 為替介入(政府が短期債を発行し、円売りドル買いし、ドルを米国債で保有)することの効果は
- 円安・ドル高 → 国内の資産価格にプラス → 景気にプラス
- ドル高はインフレ懸念の米国にプラス
- ドルの金利が下がることで米国景気を刺激、実質金利をゼロとかマイナス領域に持っていけば強い刺激になる
- ドル金利は円金利よりも高いから、政府は金利差収入を得る
日米金利差が重要、3%以上の金利差があればドル高が進む、2%ならば話は別。 ... 日本のインフレ率はほぼゼロで、FRBの暗黙のインフレターゲットが2%とすると、日米金利差が2%は、日米の実質金利差がゼロで、思惑で円高にもなりやすくなる、と解釈。
米国の赤字、ドル安論について
- ドルが基軸通貨である限り、世界経済が成長し貿易が盛んになれば、ドルが必要であり、FRBはドルの供給を増やさねばならない。
- 米国は経常赤字は巨額だが、利払いよりも直接投資や株式投資の受け取りのほうが大きく、今日・明日にドルが急落するとは思えない。
- 米国経済が絶好調だから輸入が増え赤字が多い
- 日本の財政赤字が脚光を浴びてから10年たったがクラッシュしていない、日銀が国債を買いファイナンスし続けたからだ、米中央銀行が紙幣を刷れば米国経常赤字も当面ファイナンスできる
- 自ら基軸通貨の地位を降りるようなドル安政策をするするわけがない
- FRBの政策はインフレなき経済成長であるゆえ、インフレを起すドル安を容認するわけがない
- 日本の黒字は今では利子や配当が主である。モノを売り得たドルを円に変え従業員に給料を払っているわけではない。利子や配当の多くは海外に再投資されているハズ。
日本の「社会主義的資本主義」 vs. 欧米の「株主資本主義」
本格的「資本開国」は間違いなくおとずれる。 買収防衛の王道は株式時価総額を大きくすることにつきる。
日本人経営者はプロではないので、自社が買収されると引退を余儀なくされるため、買収される恐怖は大きい。だから「経営者の地位保全」を念頭に置いたとしか見られない過剰防衛が散見されるのかもしれない。
欧米企業でも従業員をむげに扱えば優秀な従業員は辞め会社は存続の危機に陥る。当然株価は急落する。したがって株価を上昇させる仕組みに従業員を適切に処することが組み込まれる。優秀な従業員を引き止めたいならば企業はそれ相応の報酬を払わざるを得ない。その意味で労働市場が報酬額を決める。それが市場経済。
藤巻さんの良い金利上昇のメカニズム
日銀が過剰流動性を供給し続けたおかげで、日本の資産価格が上向く。さらに、FRBが金利を上げ、日米金利差で円安が起きる。円安は日本の国際競争力回復をもたらすとともに資産価格をさらに押し上げる。そうなると日本の経済景況感は劇的に好転する。それを反映して日本の長期金利も上昇する。
最近は米国の景気不安で上記メカニズムが逆転しそうですが、インフレ懸念がある米国でFRBが金利を下げることはデフレだった日本で利下げするのに比べうんと景気刺激効果があるのではないだろうか、と私は思ったりします。
名目金利 = 実質金利 + 期待インフレ率 + リスクプレミアム
期待インフレ率をCPIと思ってはいけない。バブル期には不動産価格の期待上昇率が大幅の大きかったため、実質金利はマイナスとなっていて、バブルがどんどん膨張した。資産インフレが期待に組み込まれると資産インフレが亢進する(バブルが膨らむ)ということ。