アメリカの経済政策 − 強さは維持できるのか by 中尾武彦
グローバル化した世界をどう生きぬけばいいか?、「ウェブ進化論」と「フラット化する世界」を読んで以来の私自身が悩み考えていることろです。
- 作者: 中尾武彦
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2008/02/01
- メディア: 新書
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以下は個人的なメモ。
1996年から10年間の日米のパフォーマンス格差、一人当たりの実質GDPの成長率
- 日本 0.9%/年
- 米国 1.9%/年
たった1%/年の差だが10年で約10%の差がつく。20年で約20%。
この背景はアメリカの労働生産性の成長率が高いことにある。特に90年代半ばから生産性が高まった。
日本の場合、IT投資向きの効率の良い仕事のやり方を導入することが苦手とか、最近はプロダクト・イノベーションが苦手(みんなが参入してすぐに値崩れする)とかで、つらいのかも。
大いなる緩和(Great Moderation)現象 --- 最近の10年間、経済が全体として好調で景気循環も従来よりも小さくなった
IMFによる説明では
- 各国の政治的安定性
- 財政政策や金融政策の質の向上
- 金融市場の発展 → 消費や投資がより計画的になだらかに行われる
- 価格変動の大きな一次産品への依存の低下
- IT技術による在庫管理技術の向上
- 労働市場の柔軟性、貿易の開放 → 供給制約の減少
所得格差拡大の原因(仮説)
- IT等技術革新が高い教育を受けた労働者の生産性を押し上げた
- グローバル化で安い輸入やアウトソーシングで、国内の競合分野の労働者の賃金が下がった
- 技能をあまり持たない移民の流入が低所得層の賃金上昇を妨げる
- 労働組合の組織率低下や社会民主主義思想の後退
- 最低賃金の改定の遅れ
- 経営幹部の報酬が不透明な手続きだ過度に高くなった
- 新興市場国が均質で一定レベルの労働者を世界経済に大量供給、労働が豊富になることで世界的にそのレベルの賃金が下がる
- 資本は相対的に稀少になり、資本に対するリターン(利潤)は上昇する
- 石油等資源も稀少になり高騰する
- 新興市場国では消費の伸びが生産の伸びに追いつかず、大量の貯蓄が生じ、それがアメリカ等に資産運用として流入し、世界の金利を下げる作用をする
- 物価が安定するなかでの金利低下は、先進国では、株や不動産の値上がりを招く
アメリカの場合、アメリカが得意としていた分野(例えば金融)がグローバル化の結果相対的に稀少な分野となり、そこが大きな利益を生み出す。 アメリカの柔軟性・開放性・ダイナミズムが利益を享受しやすい環境を整えた。
日本の場合、輸出企業はグローバル化対応しても国内産業や居住者がグローバル化にうまく対応できないのが問題か。
格差の原因
- グローバルにみて稀少な分野とそうではない分野
- 相対的に稀少となった資本所有の有無
自分の存在がグローバルにみて希少か過剰かは重要なポイント。 私自身はこのままではヤバイ立場なので真剣です。
金融政策のタイムラグ
- 経済活動への効果が最大になるのは約1年後
- インフレ率に最も影響するのは2年後
筆者は財務省の官僚ですが、いわく
経済活動を安定的に、そして将来を良く見通して計画的に行うためには、為替レートが安定するのに越したことはない。(中略) 市場の動きにより為替お変動が生じることへの対応策としては、スワップや先物などにより為替のリスクをヘッジ(回避)する手段も増えている。
ここでの注目は
(1) 為替レートが安定するのに越したことはない、という政府の従来見解があって
(2) 為替のリスクをヘッジ(回避)する手段も増えている、
とふれている点。
為替の過度の安定というか固着はマクロ経済の自動調節機能を損なう、というのは藤巻さんの主張。 すなわち、企業のために為替レートを安定させ、日本経済に負担をかけ日本人が苦しむのは良くない。 為替は動きやすくして、起業や家計がデリバティブで気軽にヘッジできるようになればいい、最近の証券取引所でのデリバティブ上場の動きはこれをサポートする動きでしょうか。家計部門で手軽に安い手数料で為替や金利をヘッジできるよう、小口のデリバティブの上場を進めて欲しいものです。