円高で成長しようという説

日経ビジネスオンラインの時流超流に「モノ作り・輸出依存の罪 『強い通貨』を成長のチャンスに」という記事がある。
そこには

「強い円」でこう変わる

  1. 投資を呼び金融業強化
  2. 消費を刺激、小売り活性
  3. 製造業は高付加価値化

とある。 私は因果関係が逆、と思うのだ。
日本の消費が活発で景気が良く、資金需要も強く、投資フロンティアがいっぱい有るならば、円資産が魅力いっぱいで需要が高くなり、結果として円は強くなると思うのだ。 そして、そういう経済状態ならばきっとインフレ気味だろうから、インフレを抑えるために円高は大歓迎だろう。 私としても、そうなって欲しい。

輸出企業のために政府は円安を指向していると思われているが(私も長くそう思っていた)、円高

  • 日本の人件費を割高にするから、日本で生産するモノやサービスが海外のモノやサービスと比べ割高になり需要が減る
  • まわりまわって、給料や雇用に反映するから、消費は伸び悩む
  • 国内のモノやサービスの生産が割高になるとその為の資産が金を稼がないゆえ、資産価格が下がる
  • 資産価格低下は、企業の投資や個人の消費を冷やす

一方、記事は

 円高は輸入製品の価格を下げ、消費を刺激する。消費が活性化すれば小売業の収益性が増し、金融業と並び円高のデメリットを緩和する効果を期待できる。

と、為替で生じる効果の一側面をみて円高の効果を主張するが、この裏側に輸入製品の競争に負ける国内生産者がいる。記者は、だから国内の生産者は高付加価値化して円高にも負けず輸出するのだ!という主張と思われるが、円が高いと製造現場は海外に行き、海外の労働者にはおカネが落ちるが日本には落ちないのではないだろうか....。

ミクロな現象すべての総和を取ればマクロな現象を説明できると思うが、ミクロな現象の一つを取り上げてマクロな現象を解説するのは間違いだと思う。

「経常収支が黒字」とは、国内の 消費+投資 が、国内の生産を下回っている状態で、
経常収支 = 生産 - 消費 - 投資 = 貯蓄。
マクロの貯蓄をドルやユーロのまま持てば為替レートは動かないが、円で貯蓄ようとすると貯蓄=0 (経常収支=0)となる水準まで円が上昇しようとする。そのとき、消費と投資が増加して均衡すればHappyだが、生産が減少して均衡すると働きたいけど働けなくなり不幸だ。

日本の家計部門は外貨建て資産をあまり保有しないし、円高で国内生産のモノやサービスの消費が増えるというロジックはあやしい。

企業部門が稼いだ外貨を円に代えて国内に持ち帰ろうとすると円高で生産が減少することで均衡してしまう(つまり不況)。これを防いだのが政府・日銀の為替介入で、民間(家計、企業)の代わりに政府が外貨建て資産を買った。

国内の消費と投資を増やすために財政赤字を出し政府自身がムダな消費やムダな投資もしてきたが、財政赤字はもうヤバイ水準。だから政策としてはもう使えない。残る政策は

  • 経常黒字を、家計・企業・政府が外貨建て資産を購入することで海外に還流させ、国内の生産水準を保ち、雇用と収入を改善する
  • 国内の消費と投資を増やして、国内の生産水準を保ち、雇用と収入を改善する (これを実現すると結果として円は強くなる)

だと思う。

私は前者を経由して、収入やバランスシートの改善とマイルドなインフレを達成した上で、後者へつなぐのが合理と思うが、

 85年のプラザ合意以降、日本経済の奥深くまで蔓延した「円高恐怖症」。今回の円高をチャンスと捉え、新たな成長モデルへと舵を切るか。それとも脅威と捉え、従来の産業構造に固執するのか。企業も政府も大きな決断を迫られている。

という日経ビジネスの記者氏と三國陽太氏はどう考えるのだろうか。もっと詳しく書いてもらえないだろうか...。