「円の足枷」 by 安達誠司

著者の安達さんは125〜130円/ドル程度の円安水準を維持するような金融政策をとることが日本のデフレが完全に終わるための十分条件だという。 だが、過去の円安局面では円が安くなると政府関係者から円安を嫌う発言がでて、まるで円安の天井があるかのように反転しする、天井は購買力平価でみた為替レートでそこを超えようとするとマネタリーベースが引き締め気味になり円高に向かうとのこと。 安達さんはデフレから脱するためにはマネタリーベースを持続的に増加しその結果として天井を越えて円安になるほどに増やさねばならない、為替レートで金融当局のデフレ脱却の意思を伝えればマーケットの期待がデフレから脱する結果デフレが終わるという見解。 そして、円の天井は日本の政策担当者のスタンスの背後に「強い円」イデオロギーがあり、イデオロギーの背後には開港以来のトラウマと基軸通貨あるいは東アジア共同体の中心通貨にしたいという願望があるのではないか?という。

円の足枷―日本経済「完全復活」への道筋

円の足枷―日本経済「完全復活」への道筋

さて、この本に関しての私の注目ポイントは、上記の本のテーマではなくて、財政赤字の発散/収束を決定する名目金利と名目GDPの成長率の大小関係について。

  • 理論的には、「時間選好率」(今消費する場合と貯蓄して将来消費する場合とどちらが効用が高いか)の分だけ名目金利が名目成長率よりも高いという状況が常態
  • ただし、この場合の名目金利とは民間の資本収益率を指す
  • 国債の長期名目金利は民間の資本収益率よりも信用スプレッドの分だけ低いはず
  • したがって、理論的には、国債の長期名目金利 + 信用スプレッド = 時間選好率 + 名目成長率
  • 一般には、時間選好率は1%程度

こういうわけで、長期国債名目金利 vs. GDP名目成長率 の大小は理論からは決定できない。