ニューノーマル by ロジャー・マクナミー

梅田さんの ウェブ時代 5つの定理―この言葉が未来を切り開く! にてしばしば引用されていた投資家ロジャー・マクナミーの "THE NEW NORMAL : Great Oppotunities in a Time of Great Risk" の日本語版が出た。 長期のViewで投資する投資家、すなわち、社会や経済の変化を捉えその影響を大きく受ける企業に投資する投資家の、社会や経済に対するViewが今回の私の関心。 英語版購入予定が安易に流れ日本語版へ。


ニューノーマル―リスク社会の勝者の法則

ニューノーマル―リスク社会の勝者の法則


90年代後半のニューエコノミーの?なビジネスプランで起業しIPOで儲けるという時代が終わり、元のノーマルな時代に戻ったが、今まで人々を保護してくれた企業とか政府といた組織は力を失ってしまった。 ノーマルでも新しい状況なのでニューノーマル。 でも良く見ればチャンスはいっぱいあるんじゃないの、という英語のサブタイトル Great Oppotunities in a Time of Great Risk どうりの内容の本。


ニューノーマル時代とはどういう時代か? ロジャー・マクナミーは「ニューノーマル時代の不動の目印」としてそれを次の4つに要約する。

  • 個人の力が急速に高まっている。
  • かつてなく多くの選択肢が与えられる一方で、必要とされる決断も増えている。
  • 技術とグローバル化は確固たる事実である。この二つが経済を支配し、この事実は今後も変わらない。
  • 時間が不足しているのは誰も同じなので、持っている時間を最大限に利用することが不可欠である。


個人の力が高まるとは、米国の大企業はコアな事業を除いてどんどんスリム化し少ない人数で運営するので個人の力に依存するようになり、同時に、大企業から分離した人が独立したり小さな企業が増えることで、自分で意思決定する人が増えたということ。 日本ではちょっと違うかも知れないが、日本経済が復活するならばその過程で個人の力が高まるのではないだろうか。


ニューノーマル時代には選択肢は無限にあるがセーフティネットは有限なので、神話と現実を区別して選択せねばならない。 ロジャー・マクナミーによれば

神話 ウォール街が今ほど腐敗していたことはない。
現実 個人投資家が今ほど力を持ったことはない。
神話 技術の全盛期は過ぎた。
現実 技術の全盛期は始まったばかりだ。
神話 企業は今までほど人を必要としていない。
現実 企業は今まで以上に個人に依存している。
神話 技術を自分または自分で購入するのは、その有効性が実証されるまで待つべきである。
現実 真の恩恵は、先端技術を実験する者が手に入れる。
神話 ウォール街は常に請求で近視眼的である。
現実 ウォール街は正当なインセンティブがあれば辛抱する。
神話 大企業がすべてのメリットを享受する。
現実 規模の重要性はかつてなく低い。
神話 優れたビジネスアイデアはすべて取り入れられている。
現実 そんなバカな......。

私もそう感じる。 メディアは神話を語る傾向があるようだけど。


ロジャー・マクナミーは技術が作用する場所や社会への作用の仕方が従来とは違うと言う。 従来は主に職場(生産の現場)に技術が投入されていたが、今は人々の実生活に技術がどんどん入っている。
グローバリゼーションはシンドイが新興経済諸国はアメリカ経済を破壊していない、むしろアメリカ製品に対する需要が増えることでアメリカ経済を助ける。

技術 + グローバル化 = チャンス


低体温・低血圧の日本にいるとピンと来ないが、ロジャー・マクナミーによれば、ニューノーマル時代はインターネットバブル以前の時間感覚にもどったものの、日常生活であまりにも多くのことがおきるので、時間の使い方をよく考えねばならない、とのこと。 日本と海外とでは時間間隔がズレていることを肝に銘じよう。 重要、重要...。


ロジャー・マクナミーの社会や経済の大きな変化のViewはこんな感じではないだろうか。 (私の見解も混じっているので要注意...)

  • かつては情報伝達にコストがかかり遅かったので、トランザクションコストを減らすべく、組織を大きくして同じ仕事を繰り返すことが合理的だった。 だから大きな組織の中で安定した人生があった。 技術の進化でITが登場し、組織に導入されると、トランザクションコストが減少し大組織の経済的合理性が低下してきことと、グローバリゼーションで、大組織はコア部分を残し縮小し、仕事のやり方を柔軟にし、外部のリソースにも依存するようになった。 この過程でかつては大組織のトップの若干名だけがやっていた「自分で決断すること」が多くの人々もできる(直面する)ようになった。 技術 → トランザクションコスト → 組織の変化 → 人々の働き方の変化。
  • 技術の進化のおかげで、かつては価格が高くて企業部門だけが導入できたモノの価格が低下して、個人も買える・享受できるようになった。 今では個人のところが技術革新のフロンティアである。 ITは企業部門では「神経の強化」として機能したが、今では「供給サイド」「需要サイド」の個人の「知・脳の強化」としてフロンティアを開拓している。 技術が作用する場所・作用の仕方は大きく変化した。 場所は個人、作用は知。
  • 機械が筋肉や神経の代用をするし、グローバリゼーションで新興国の人々が労働市場に参入するから、先進国では、今までに無い何かを創ることがカネを生み出す。 幸い、規模(資金量)の重要性は低下したから、小企業や個人にもチャンスがたくさんある。 フロンティア(技術)に参加することが重要。 従来は規模でトランザクションコストを減らすことが裁定機会だったが、今では新しい知識を生み出しそれが当たり前になるまでの時間差が裁定機会となった。


そして、ロジャー・マクナミーは市場はかつてなく公平になったと言い、最後の章で投資家としての彼のルールを紹介してくれる。


ところで、ロジャー・マクナミーは、雇用者と被雇用者の関係は今は雇用者側が有利になっているがいずれ均衡状態に戻ると書いている。 どういう理由でそう予測するのだろうか?。
ニューノーマル」の執筆は2003年ごろ、景気が悪かったころだから、いずれ循環的に景気が回復するという数年のレンジの見解だろうか。 それとも、新興経済国の内需が拡大する頃にはグローバルな賃金格差が縮小して先進国での労働需要が増えるというもっと長期の見解だろうか。 あるいは、米国の年齢別人口分布(リタイア世代が増えれば現役世代の労働への需要は増える)を見ているのだろうか。