強欲資本主義 ウォール街の自爆 雑感 つづき
11/23の続きです。 ファイナンス系の人はしばしば「モノ作り」を賞賛しますが、私にはそれが違和感として感じられてなりません。
神谷氏の主張は、ハイレベルの「モノ作り」こそが日本が進むべき道、米国の双子の赤字と日本のゼロ金利と円安が過剰流動性の原因である、無理に成長を目指すな、というあたりにあるように思われます。
しかし、消費 + 設備投資 < 国内の供給能力 という状況において、
- 成長を目指さないとなると、供給過剰からくる雇用の問題はなかなか解決しないし、かといって分配に政府が介入すると人々の才能がイノベーションよりも分配に投入されてそもそも成長しなくなるし、
- デフレで実質金利が高止まりするからこそ設備投資は起きないし消費は先延ばしされ奮わず、ここから脱出しようとゼロ金利に達してしまったのであり
- 政府と日銀の介入は、デフレから脱出するためのマネタリーベースを供給する手段でもあり、輸出で国内の供給能力が余らないよう(雇用を維持するよう)ドルを米国に還流する手段でもあり、円高で輸入と競合する仕事が海外に流出しないようにする手段でもあった
- 家計か企業か政府が海外投資をしないと、輸出したくてもできなくなるまで円高が進み、供給過剰の分が不況となる、
- 人手を使う「モノ作り」は円が高くなれば海外に流出するし、人手を使わない「モノ作り」は雇用にあまり貢献しない、
- 高付加価値のモノを供給能力フル稼働で生産すると値崩れして高付加価値ではなくなっちゃう*1
- 金利を引き下げず、円売り介入も行わず、強いデフレ圧力下で雇用や収入源に苦しみつつ、ひたすらイノベーションと「モノ作り」に励むことが人々の幸せだろうか、イノベーションをする気力は出るだろうか、イノベーションを実行に移すためのリスクマネーはどこから出てくるだろうか
こういった理由で、神谷氏の主張を並べて眺めると私はなんか違和感を感じるのです...。
神谷氏はアメリカについて
アメリカはあらゆる産業で「モノ作り」ができなくなりつつある。
と批判的で
本物の成長は「真の技術革新」からしか生まれないものだ。 (中略) しかし、このところ「産業革命」を起すような「真の技術革新」が生まれていない。
このようにおっしゃるが、今まさに「産業革命」を起すような「真の技術革新」がアメリカを中心に起きていると私には思えるのだが...。 単に創っている「モノ」がS/Wや半導体チップの設計等の工場を必要としない「モノ」なので目につかないだけでは。
神谷氏の欧米の銀行がバランスシートから切り離したはずのサブプライムローン証券でやられた理由の説明はわかりやすくgoodでした。 銀行はなぜサブプライムローン証券にはまったか?
銀行がもくろんだスキーム
- 銀行とは連結しないペーパーカンパニーを設立
- 銀行から借金してサブプライムローン証券を買う
- AAA格付けのサブプライムローン証券を担保にCPを発行し資金調達し、満期のきた借金を返す
- CPの満期がきたら、あたらなCPを発行し資金調達とCP償還をおこなう
- これをサブプライムローン証券の満期まで繰り返す
- 銀行はCP償還のバックアップを保証する (きっと、保証料をペーパーカンパニーから受け取る)
ところが
- サブプライム問題でサブプライムローン証券の時価が急落した
- サブプライムローン証券の価値下落で、CP償還を賄えるほどの新たなCPを発行できなくなった
- CP償還バックアップ契約をしていたスポンサー銀行が償還用のおカネをペーパーカンパニーを渡し、その代わりにサブプライムローン証券を受けとる
- その結果、銀行がそれを資産として抱えることになった
- サブプライムローン証券が値下がりすると銀行のバランスシートが悪くなることになった
- 作者: 神谷秀樹
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