大破局(フィアスコ)

サブプライム問題が引き金になった今回の金融危機ではデリバティブが原因と言われるが、どういうデリバティブがどう悪さしたのか?メディアでは説明がありません。 先物、オプション、金利や通貨のスワップといったシンプルなものは教科書にでているが、そうじゃないのはどう作るの?
昔読んだ本を読み返してみた。


大破局(フィアスコ)―デリバティブという「怪物」にカモられる日本

大破局(フィアスコ)―デリバティブという「怪物」にカモられる日本


90年代前半にモルガン・スタンレーデリバティブ部門の話。 ここで取り上げられていたデリバティブ商品は...


PERLS (Principal Exchange Rate Linked Securities)
元本の返済が為替レートにリンクする仕組み債 −−−債券のように見えて為替レートに対するレバレッジつきの賭けのように働く債券、Structure Note (仕組み債)の一種。 Forward Yield Cureve (将来のある時点の金利 → 為替に作用する)の賭け。
買い手は (1) 保険会社の血迷ったファンド・マネージャや年金基金がギャンプルするのに使う、(2) 何もわかっていない投資家


PLUSノート (Peso Linked US Doller Secured Note)
メキシコの銀行は物価指数にリンクしたペソ建てメキシコ国債保有していたが、インフレの沈静化に伴い魅力が減少し(時価も減少し)、損失を計上せずに現金化したがっていた。 更に、メキシコのペソ建て国債はAA-だがドル建て国債はBB,投資家はドル払いでBBB以上の債券を購入したがる。 さて、どうするか?。
バミューダ諸島にメキシコの銀行の連結決算対象となるペーパー会社を設立し、その会社に物価連動メキシコ国債を売る。 こうすれば、銀行は現金を手にでき、連結決算すれば物価連動メキシコ国債はまだ保有していることになる。 ではそのペーパー会社は銀行に渡す現金をどう手に入れるか?。
ペーパー会社は2つのクラスの債券を発行する。 ひとつはペソの支払いをドルに変えて支払うローリスクの部分(債券の元本部分のペソの為替変動をヘッジする為にオプションを買う)で、S&PからAA-の格付けをもらう。 これを投資家に販売する。 もうひとつのクラスはオプションの売りを含むハイリスクのもので、メキシコの銀行自身が買う。
ペーパー会社はペソのキャッシュフローを米ドルのキャッシュフローに転換するために、モルガン・スタンレーとの間でスワップ契約をする。モルガン・スタンレーはペソを受け取り、ドルを支払う。 モルガン・スタンレーはペソの為替とメキシコ金利をヘッジするためにペソを借りてメキシコ国債をPLUSノート満期まで長期保有したが、バランスシート上にメキシコ国債を持ちたくないので他の米銀に買い戻し契約つきで売った。
メキシコの銀行側は米国債金利+2%を支払う、モルガンスタンレーは0.25%で調達。
一見、詳しく書いてあるように見えて実はぼかしてあるようで、仕組を完全には把握できていません...


RAV Repackaged Asset Vehicles
証券をトラストや特別目的会社SPCに委託し、そのトラストやSPCが別の証券を発行する。PLUSノートはRAVの一種。


ブラジリアン・インデックト・ダラー・セキュリティー
ブラジルの通貨はドルにペッグしていたが、ブラジルはインフレだったため高金利。 高金利が魅力の投資家がいたがブラジル国債の非ブラジル人所有に制限があった。 この場合、ブラジル国債の所有が認められるトラストにブラジル国債保有し、そのトラスト発行のドル建て債券を投資家に売る。 ポイントは、債権の一部(例えばブラジル通貨での利払いと元本償還)をS&Pで高く格付けてもらい、その格付けと高金利でウブな投資家に売る。 もちろんブラジル通貨が下落したら、投資家が受け取るドルも減る。


フィリピン国営電力会社NPCの債券
NPC世界銀行による元本返済の保障つきドル建て(AAA、ただし利払いの保障は無く、NPCの利払いの信用は怪しい)15年債を発行したが、買い手がいない。 そこで、NPCのAAAの元本と、米国債のゼロクーポンを少量組み合わせて合成したAAAの利払いと、信用無しのNPCの利払いとを組み込んだトラストを作り、そのトラストのAAAの元本とAAAの利払いに関してのみS&Pから高格付けをもらう。 そして、S&Pの高格付けと、当てにならない高利回りをアピールすると、ウブな投資家が高利回りかつ高格付け債券と勘違いして買ってくれた。


イタリアのリラ建て国債はAAAだが、ドル建て国債はAAAではない。 投資家はドル建てでAAAで高利回りの債券を欲しがる。 そこで、SPCを作り、S&Pからヨーロッパ7カ国の国債に投資するSPCとしてAAAの格付けをもらう。 SPCが実際に買うのはリラ建て国債で、SPCと銀行との間でスワップを行い、SPCが受け取るリラの支払いをドルに変え、投資家に渡す。 銀行は高金利のAAAのリラを受け取りSPCに低金利のドルを渡すことで金利差を稼いだ。


アルゼンチン中央銀行保有のアルゼンチン国債の処分
最初の6年利払い無しという悪条件で買い手がつかないアルゼンチンのドル建て国債(市場価格は非常に安い)を、モルガン・スタンレーが、モルガン・スタンレーの調達金利(低金利)で資金調達し、安く購入し、その国債ケイマン諸島に設立したトラストに渡す。 買値が安いため、利払いは(支払われれば)高利回りとなる。 トラストはアルゼンチン政府からのキャッシュフローと、モルガン・スタンレーからの固定金利(14.75%)とをスワップし、モルガン・スタンレーに裏付けられた利払いで債券を発行し販売する。 高金利で、利払いは高格付け。 ただし、もろもろのハイリスクは元本の償還におっかぶせてある。


ストラクチャード・ノートは金利に関する賭け。 公衆の目からデリバティブ取引を隠す。
フレディマック金利差を稼ぐために、投資銀行が生み出すデリバティブを組み込んだストラクチャード・ノートを発行する。 フレディマック発行なのでAAAがつく。 元利の支払いは信用できるが、価格変動の激しい債券ができあがる。


トータル・リターン・スワップ (イクイティースワップ
投資家は後日株券と今後の配当を引き渡す約束をし今現金を受け取る。 投資銀行は株の空売りを行い、株価変動をヘッジする。 投資家にとって今株を売ったのと同じだが、この取引ではキャピタルゲインは出ないので、税金を支払わなくてもよく、節税できる。


IO, PO, IOette
モーゲージの利子と元本支払いを幾つかに分割する。
住宅ローンの支払い → ファニー・メイ → CMOを含むモーゲージデリバティブ
モーゲージの分割のしかた
IO 利子払いに対しての権利、金利が低下すると住宅ローンの借換がおき、政府保証でAAAであってもIOはカネを受け取れなくなることがある。
PO 元本の支払いに対しての権利
IOette ほとんどのIOとごく小さなPOの混合。 価値の大部分はIOから来る。 巨大なクーポン(債券の額面の数千%)を持ち、額面に比べ巨大な価値


AMIT
同額面のIOetteで構成されるトラスト・ユニットとゼロ・クーポンで構成されるトラスト・ユニットからなるトラスト。 IOetteの部分とゼロ・クーポンは同額面だが、価値が大きく異なる。 IOetteの方がはるかに価値がある。
投資家はトラストを購入後すぐにIOetteのトラストユニットを売る。 額面では50%だが時価では50%よりもかなり上なので大きな利益がでる。 残ったゼロ・クーポンのトラスト・ユニットはそのまま持ち続ける。 売るとディスカウントされているから損がでるが(仮に損がでても担当者はその頃にはいないという計画で取引した)、満期まで持てば額面が償還される。


この本に出てくるデリィバティブの解説を読むと、S&Pの格付けが重要な役割を果たしていることがわかります。 細かい文字で書かれた脚注つきのAAAとかAA+の証券を、買い手の機関投資家が脚注をよく読まず、よく理解せずに、あるいは、ファンドマネージャがいちかばちかのギャンブルをするために買うことが投資銀行の儲けの源泉だった。