成熟経済での長期不況の原因は貨幣愛

普段は立ち読みで済ましている経済週刊誌をひさびさに買いました。 東洋経済の「特別講義」というところに引かれて。



小野善康 阪大教授
しっくりくる説明だと思います。

なぜ、長期不況は起きるのか。 そこには「金持ち願望」ともいうべき人々の心理が影響している。
本来、紙幣はただの紙である。 だが、この紙が束で財布に入っていたなら、誰もが「あれもこれも買える」とうれしくなる。 おカネの効用んは、具体的に何かを購入して得る満足とは別に、「可能性を手にしている」という満足がある。 しかも、ケーキは10個も食べたら飽きるが、おカネはいくら増えても困らない。 だから消費意欲がある程度満たされると、「無駄遣いせず貯めておこう」となる。 そのため物が売れずに不況になる。

私は半年ほど前から、成熟した経済で生産性が上昇していくと、ムダ使いしないと不況と失業が発生するという、パラドキシカルな状況が発生して、こうならないよう懸命に消費していたのが米国ではないか?、失業を防ぐためには浪費が必要なのではないか?と思っていました。
デフレの状況では、リスク資産を保有すると将来の消費が減ってしまうし、紙幣を保有しているだけで将来の消費を増やすことができるので、人々の紙幣への愛情が増え、消費は減るし、事業の投資も減る。 需要が減れば、不況も雇用も悪化する。
そして、藤巻さんによれば、「リスク資産価格が上昇すればこの状況から脱することができる」。

  • リスク資産価格が上昇すれば、消費を我慢して紙幣を貯め込む魅力が減少し、消費をするようになる
  • リスク資産価格が上昇すれば、リスク資産に買いが入るようになり、貯めこまれていた紙幣がリスク資産の売り手にわたり、売り手が消費できるようになる
  • リスク資産価格が上昇する状況では、トービンのqの経路で実体経済の投資が活発になる
  • リスク資産価格が上昇する状況では、借り入れが容易となり、実態経済の投資が活発になる
  • etc.

こういった経路で景気は回復するというロジックだと思います。
リスク資産が上昇するロジックは、

  • 円が安くなればグローバル投資家が日本のリスク資産を買い、これが円での資産価格上昇につながる

ハズでしたが、グローバル金融危機でこの経路は今動かない...。 そこで、日本の居住者の紙幣への愛を減らすために

という案なのでしょう。


竹森俊平 慶大教授
サブプライム危機の原因は何だったか、だとすると...

  • アメリカの消費しすぎが原因 --> 消費の長期低迷は避けられない、財政・金融政策が効く
  • 金融規制の欠如の問題 --> 消費の大きな落ち込みは必然ではない、財政・金融政策が効く

どちらにしてもアメリカの消費は減少するから、その分を他国が補わねばならない。
過剰貯蓄のアジアの資金をアジア新産業に向けるためには、アジアの金融市場の育成が重要である。 この戦略を失敗すると世界経済は減速を避けられない。


池尾和人 慶大教授
日本に悲観的なようです。 私も製造業礼賛には違和感をもっていましたが... 日本のメディアの空気ってロジカルじゃない...。

輸出型の製造業に頼っていれば何とかなる、という局面は早くも終焉しつつあるのだ。 本来なら、稼ぎ頭の製造業がしっかりしている間に、ほかにサブとなる産業をいくつか育ててこなければならなかったはずだったが、結局のところ日本は、これに失敗した。

国際的なアンバランスの原因の一つとなった日本の過剰貯蓄は法人企業部門である、とのこと。
貯め込んでいたというよりも、負債を減らし続けていたというところでは。 負債を減らし資産(投資済みの設備とか無形資産)を圧縮(損切り・廃却)してきた。 おカネを投じて価値があると称していたものが実はガラクタでそれを捨てるときに会計上B/Sが圧縮し、統計上貯蓄として見えるのかなあ。 こう考えると

本来、企業が内部留保する資金というのは、成長のための投資に使うべきもので、きちんと企業が投資機会を見つけて資金を振り向けていれば、このような過剰貯蓄はおこらなかったはずだ。

という説明がやっと腑に落ちるような気がしてきました。

多くの企業が長年にわたって新たな投資先を見つけられなかったために、過剰貯蓄はここまで大きくなってしまった。
これが意味することは、日本が自国内で新しい投資機会をまるで創り出せてこなかった、という事実である。 かこ30年間かかっても進まなかった日本の産業構造転換が、ここ2〜3年で急速に進展するとも思えない。

アメリカほどイノベーティブでないかも知れない日本で投資機会を創るのに円高は逆風だろうと思えます。
企業の負債減らしは限界があるから、ある時点で企業部門の貯蓄が消えるのでは。 そうなると、政府は赤字、家計はとんとん、企業もとんとん、となると経常収支は赤字となり、円安圧力になる。 円が安くなればそれほどイノベーティブでない日本でも(逆風が追い風になり)投資機会を創り出し易くなる。 こういうロジックで藤巻さんは楽観的なのでしょう。
そして、追い風が吹き始めたときには、労働とかおカネといったリソースが効率的にアロケートされる環境で久々の経済成長をエンジョイしたいものです。 だからこそ、藤巻さんも構造改革の重要性を指摘するのでしょう。

*1:金融緩和(量的緩和) + 必要以上の日銀当座預金にマイナス金利を課す という政策ミックス