小野善康「金融」

経済学の教科書を読んでもなかなかわかりづらいのが金融市場(リスク資産価格)と実体経済の関係であり、貨幣という不思議な存在。 ミクロ経済学の教科書には資産は表に出てこないし、マクロ経済学IS-LMには納得感はあるものの何か重要な部分が欠けている感じで、ずっと悩んでいた。

金融 第2版 (現代経済学入門)

金融 第2版 (現代経済学入門)

ちょうど私が知りたかった部分をモデル化しているのがこの教科書で、ざっと目を通し終わったところだが非常におもしろい。


以下は、メモ。

家計の経済行動とは、貨幣の流動性プレミアムlと収益資産の収益率Rを比較しながら、これまでに蓄積した資産を貨幣と収益資産に振り分けるとともに(ストックの決定)、資産選択によって決まる貯蓄の便益(R = l)を消費の便益ρ*1 + π*2 と比較して(貯蓄と消費の)有利な方に資金を振り分ける(フローの決定)

ストック変数である資産の市場調整に比べ、フローの市場調整は一般に緩慢であると考えられる。 そのうち特に労働賃金の調整には時間がかかる。

金融資産の存在する経済では財市場と資産市場が均衡していても、労働市場に慢性的な失業が発生する可能性のあることもわかる。

人々の流動性保有願望にもうこれ以上いらないという飽和点がなく、いくらあってももっと欲しいと思う場合には、完全雇用一般均衡が存在しない可能性が出てくる。(中略) 流動性保有願望が消費願望を表す時間選好率を越えていれば、人々は消費を増やすより貯蓄しようと思うから、消費が完全雇用生産量を下回って慢性的有効需要不足が発生する。

需要不足がもたらす不況は貨幣経済に特有な現象であり、人々の飽くことのない流動性保有願望によって引き起こされる。 またそれは、生産能力が高く、物欲よりも金銭欲がまさっている国ほど起こりやすい。

物欲を表す時間選好率*3と金銭欲を表す流動性プレミアムの下限*4は、いずれも同じ人の選好の別の側面である

完全雇用と不況を分けるのは、時間選好と流動性選好との大小である。 時間選好が流動性選好を上回れば消費が伸びて完全雇用が実現され、流動性選好が時間選好を上回れば貯蓄が増えて不況になる。

時間選好と流動性選好、ともに アニマルスピリット が大いに作用するのではないか。

流動性のわなは実質残高効果(ピグー効果)の消滅と同値

景気の長期変動は、人々が株式や土地などの収益資産の流動性を信じ、そこから効用を得ている状態と、収益資産からの流動性が信用を失い貨幣の流動性ばかりにしがみつく状態との行き来によって生まれる。

藤巻さんが「日本では土地もおカネとしての役割をもつ」という趣旨を以前どこかに書いていた意味は、流動性(それを売れば消費することができる能力)のことだった。

*1:時間選好率

*2:インフレ率

*3:定常状態での将来と現在の消費の比較

*4:現時点での消費と貨幣との比較