「論争・デフレを超える」 2002年の論争を振り返ると part 4

論争・デフレを超える―31人の提言 (中公新書ラクレ)

論争・デフレを超える―31人の提言 (中公新書ラクレ)

I.. デフレと生きるか、デフレと死すか
II. 円安は救世主となり得るか
III ニッポン社会の構造改革
IV. インフレターゲットは特効薬か
V.. 提言
以下は私の読書メモ。青文字は私のたわごと。


IV. インフレターゲットは特効薬か


松原隆一郎
あなたは、なぜお金を使わないのか? 消費者を対象にした多くの調査で、この質問に「デフレだから」と答える人は一人もいない。 --- そうかなあ...。 私の場合、デフレと思うからこそ先送りしている消費は多いような気がするが。デフレと思うからこそ消費の効用よりも貨幣を選んでいるところもあるが。
明らかにどの統計を見ても、皆が答えているのは「不安だから」という理由だ。 --- 私もそう思う。
今、人々が一番信用しているのはお金だ。お金が他の何よりも信用がある、ということ自体が異常なのだから、お金以上に信用できるものを皆で作らなければならない。 --- 問題はお金の実質購買力が時間とともに増すことではないかなあ。貸した金はちゃんと決済されるという信用と一般社会的な信用とがごっちゃになっているような気がするなあ。
消費は非常に安定しているので投資の不安定性をどうにかせよ、というのがマクロ経済学の基本的な考え方だった。景気が悪くなると消費性向は上がり、経済にとって自動安定化装置の役割を果たすと考えられてきた。ところが、今起きているのは、景気が悪くなるほど消費性向が下がり、貯蓄率が上がるという姿。
雇用の安定を維持しないと将来が不安という以上、雇用の安定を最優先にするしかない。企業にとって、リストラするか、賃金を下げるかののどちらかしかないならば、賃金を下げるしかない。 --- 名目物価、名目賃金が下がるならば、いま必死で貯蓄したほうが将来より多く消費できるから、みな必死で貯蓄するんじゃないのかなあ。そして貯蓄する余裕が失われるところでやっと均衡する。
人々はある程度長期の所得が分からなければ消費はしないが、終身雇用制の崩壊で、目先の所得しか当てにできなくなった。信頼と安心に足る制度を作ることが急務だ。--- そのとおりと思う。制度の設計と安定には時間がかかるとも思う。


ポール・サミュエルソン
流動性の罠に陥っているとき、中央銀行が既発国債の購入という普通の意味でのマネタイゼーションを行っても、何も成し遂げられない。なぜならば、人々は金利0%の国債保有する代わりに現金を保有するからだ。
伝統的な中央銀行の政策では効果を発揮しない。財政政策を発動する以外に方法はない。
日本もRFCの様な機関をつくり、負の金利で貸出を行えばよい。これは実質金利をゼロ%以下に引き下げることだ。
財務省であれ、経済産業省であれ、官僚の多くは東大法学部の出身で、経済学は組織内で勉強会を開く程度にしか学んでいない。大学の専門家との論争もあまり行われてこなかった。日本には国家の経済政策に貢献した学者が少なかった。


賀来景英
量的緩和でマネタリーベースは急増したがマネーサプライや銀行貸出への影響はなかった。実体経済への影響もなかった。資産価格への影響も一貫したものはなかった。
日銀の意思決定システムは政策委員会と執行部のトップにすぎない理事からなる二重構造になっている。最高決定機関である政策委員会は、専門知識において明らかに執行部より劣っており、実質的には執行部がいろいろな知恵を出している。日本には専門家という名に値する人がきわめて少ないという事実が、専門家の存在を前提にしたこうした仕組みがうまく機能しない最大の原因ではないか。
日本経済が停滞を脱するのに必要なのは、規制緩和など意味のあるミクロ構造改革と、それと整合的で的を絞った財政政策の組み合わせ。その場合、国債引受もタブーと考える必要はない。
財政の規模が現状のままで日銀が仮に国債を引き受けても意味のある効果があるわけではない。国債引受の実質的な狙いは長期金利のペッグということになる。日本の財政状態を考えたとき、どこまでやるべきかを真剣に考えなければいけないし、市場の信認が得られるようなアコードが絶対に必要。


植田和男
単純にマネーを出せばインフレになるという考え方はあてはまらない。その理由は

  • 短期金利がこれ以上下がらない状態にあり、流動性の罠に陥っていること、
  • 日本経済が構造調整の過程にあるなかで、低金利が経済を刺激する力が弱まっていること。

デフレに関しては、不良債権よりも資産デフレの影響の方が大きい。
資産デフレの理由

  • 日本は80年代あたりに欧米諸国にキャッチアップしてしまい、そこから更に進むには、新しい技術や生産性向上の道を見つけなければならなかったのに、経済構造が必ずしもそれに適していなかった。
  • そういう時期にちょうどバブルの生成と崩壊に直面したこと

これらの要因によって資産のリターンが低迷を続け、それに合わせた水準に資産価格が下がってきている。
調整が終わるか,革新的技術が見つかり適正な資産価格がより高い水準になるまで,資産価格の下げ止まり・上昇は無いだろう。資産デフレを止めるには,資産を活用する新しい方法を生み出し,生産性を上げることにより資産価値が上がることで資産価格を上げる方向で、規制緩和構造改革を進める。 --- 円が安くなればグローバル投資家が割安と感じて円建てリスク資産に買いを入れるとで資産デフレが止まる、というのが藤巻さんのシナリオだった。惜しかったなあ、うまくいきそうだったのに。


斎藤誠
95年ごろから追加的な貨幣供給をすると、同時に貨幣の流通速度が低下するという現象が繰り返されてきた。十分ゼロに近い金利のもとでは、貨幣を保有しても機会コストが生じないため、供給される貨幣が市場に滞留してしまう。 --- 逆に、長期金利が上昇すると機会コストは発生するので流通速度がUpする、といえるのだろう。
貨幣数量説を前提とする議論は、流通速度がある程度の時間を通じて安定しているもとで、貨幣供給を長期的に変化させることで長期的な物価水準を制御できるというもの。しかし、流動性の罠で流通速度一定という前提が成立していないもとでは、量的緩和 → インフレ期待 → 物価上昇 というロジックは全く機能していない。 --- 銀行経由の経路が効かないから、藤巻さんは為替経由の経路による (1) グローバル投資家の行動による資産価格Upの作用と、(2) 実体経済への作用 に着目していたのですね。
優良企業が内部留保を株主に返し始めている。優良企業の内部に収益性の高い投資機会がないことの裏返し。--- 国内に良い投資機会がないならば、お金は高い収益性を求め海外に向かってしかるべき。しかし海外に流れない。このことを藤巻さんは「おできに膿がたまっている状態」と表現したのだろう。


I.. デフレと生きるか、デフレと死すか
II. 円安は救世主となり得るか
III ニッポン社会の構造改革
IV. インフレターゲットは特効薬か]
V.. 提言