「論争・デフレを超える」 2002年の論争を振り返ると part 5

論争・デフレを超える―31人の提言 (中公新書ラクレ)

論争・デフレを超える―31人の提言 (中公新書ラクレ)

I.. デフレと生きるか、デフレと死すか
II. 円安は救世主となり得るか
III ニッポン社会の構造改革
IV. インフレターゲットは特効薬か
V.. 提言
以下は私の読書メモ。青文字は私のたわごと。


V.. 提言


佐藤健
リスクに見合うまで貸し出し金利が上がれば貸し出しは増え、マネーサプライも増加する。
企業や家計、市場などの経済主体が、デフレを合理的に予想する結果、デフレ期待が自己実現し、現実の物価経路を決めている。それがデフレからの脱却をますます困難にして、あらゆるマクロ政策が効きにくくなっている。
財政政策が効かないのは財政支出を行っても、かえって人々が将来の増税を予想し、結果的に貯蓄に走ってしまうから。
日銀はいつの日かインフレ期待が醸成されるのを期待し、大量の流動性を供給している。長期国債買い入れオペで量的緩和を行っている。イールドカーブの長いところに働きかけカーブの傾斜を極力抑えるが、結果的に、市場のインフレ期待を殺すことにつながっている。
資産価格の底値感を醸成することが重要、そうすることによって初めて、金融市場における期待形成を通じて、インフレ期待の醸成につなげることができる。銀行への公的資金投入はそのような期待形成のための損切り手段として位置づけるべきだ。


李登輝
そもそも不良債権が発生した理由を考えると、企業経営の失敗はあったが、結局は景気が悪いからだ。
プラザ合意による円高で、日本企業は海外に出たが、日本にとっては大きな重荷になった。円相場を思い切って引き下げるべきだ。輸出が伸びれば国内景気の回復によって生産能力の更新が必要になり、輸入も大きく増えるはずだ。
日本人の一人当たりの居住面積は台湾よりも狭い。政府が住宅政策で舵をきれば莫大な需要が生じる。
1ドル160円での為替ペッグ。3〜4%のインフレターゲットを設ける。それによってインフレを起こせる。
インフレになれば労働分配率は下がり、資本収益率は上がる。国内の投資は増え、企業は中国に行かなくても良くなる。インフレを起こすこと自体がインフレ期待を強め、ゆっくり消費が増える。
ドル換算の資産価値が下がっても、景気が回復すれば5年か10年で何倍も資産が増える。
物価を安定させよとか、為替相場を大きく変動させるべきではないという主張は、かつてのインフレ時代の話だ。今は国際金融が実体経済に影響を与える時代であり、経済がどのような病気にかかっているかを見極める必要がある。--- 李登輝氏は「国際金融」(経済主体のグローバルな資産選択の動き)が実体経済に影響を与えると認識している!。


村山昇作
根本的な問題は、貯蓄率が高すぎること。
終戦直後はモノを作りさえすれば何でも売れた時代。そういう状況では(一般には)所得が低いので貯蓄不足になるが、日本は勤倹貯蓄型だったので所得水準の割りに貯蓄率が高く投資のかなりの部分を国内貯蓄で賄うことができ、投資増→所得増→消費増→投資増 の好循環になった。
昭和40年不況以前
外貨準備が少なかった(&固定相場制)ので、景気が過熱し国際収支の赤字が拡大すると、金融引き締めで景気を冷やし輸入を抑えた。国際収支が改善すると金融を緩和する。強い需要を無理に抑えていたので、景気はすぐに良くなった。
昭和40年不況以降
国内の需要が不足してきた。
日本が国際競争力をつけ、輸出が伸び始めた。輸出が需要不足を補うようになった。その結果が国際収支の黒字であり、プラザ合意をきっかけに急速な円高となった。輸出が以前のように伸びないため、ほっておくと需要不足に陥る。このため、日銀は金利をゼロまで下げ、民間の需要不足を財政が肩代わりし財政赤字が積み上がった。
投資と貯蓄とを均衡させるのが金利の役割。
しかし、日本では、企業の設備投資は金利よりも稼働率に作用され、高齢化で家計部門は金利収入減を恐れて貯蓄を増やす。
70年代は物価上昇でかえって貯蓄率は上昇し、個人消費は悪化した。
円安で円を押し下げれば年寄りは不安になってもっと貯蓄するだろう。
景気が悪いのは、日本人がモノを買わず、貯蓄して自分を守ろうとしているからだ。高すぎる日本の貯蓄率を是正しなければ何も解決しない。
日本は貯蓄不足のとき、マル優をつくった。借金奨励のメッセージとして税制を切替れば、それが国民へのメッセージになる。
人間はなぜ働き、なぜ貯蓄をするのか。最終的に消費するためだ。生きている間に使うからこそカネは意味をもつ。今は不安感からだれもが貯蓄をしているが、皆が同じコトをやったら合成の誤謬で景気は悪くなる。一人一人からみて、消費することが長期的に見ても合理的な行動になるようなマクロ的環境を作る必要がある。それがインフレの世界だとは思えない。--- 円で過剰に貯蓄しようとしてデフレと不況に苦しみ、人口の高齢化でやっと過剰貯蓄が解消する。いったい何をしていたんだろうね


池尾和人
世界的な供給構造の変化によって、日本が持っていた価値創造能力がガクンと落ちた。しかし、本人の技能や勤勉さは何も変わらないのに、経済環境や技術基盤が変わったことで所得が減り悲惨な状況に陥っているが、それに納得できないでいる。
過去のことを諦める必要がある。--- 過去を諦め、低下した実力に見合った為替レートになればいいのだ。
一人一人が調整する過程で、需要の縮小が先行すれば縮小均衡に向かってさらに突っ込む可能性もある。財政にしても、破綻は避けられないという 認識に近い。不思議なのは、国債市場がそうしたリスクを織り込まないこと。市場の評価が正しいとするならば、慎ましやかに消費し、貯蓄を国債に換えて遺産としてずーっと次世代に移転していく、これが予想しうる一つの姿かもしれない。


福井俊彦
グローバル化とIT革命の進展のもとで、極端に言えば、(成熟経済では)これからは付加価値の創出でしか収益をあげられなくなってきている。
戦後50年の成功の過程でのボタンの掛け違い : 労働分配率と資本係数を上げすぎたことで、高コスト構造と土地神話を生み、間接金融優位のなかで金融面の歪みを引き起こした。社会の隅々に既得権が生じ、自分だけは安全地帯にいたい人が多い。
日銀が大量の流動性を供給し続けているのは、経済が新しい構造に移ることによって、潜在成長力や期待インフレ率が高まり、長期金利が上昇してくる、そういう状況を早く実現したいからだ。永遠に長期金利が低いままということは、経済がダメになる、ということだ。国債の累積度が低ければ、将来、長期金利が上昇しても比較的穏やかだろう。この先、経済が立ち上がる時期が遅れれば遅れるほど、財政赤字が更に累積し、急激な長期金利の上昇が起こる心配がある。そうなれば、制御が非常に困難になる。--- 財政赤字は更に累積しちゃったから急激な長期金利の上昇になるか...。


I.. デフレと生きるか、デフレと死すか
II. 円安は救世主となり得るか
III ニッポン社会の構造改革
IV. インフレターゲットは特効薬か
V.. 提言