「開発主義の暴走と保身」 by 池尾和人

開発主義の暴走と保身 金融システムと平成経済 (日本の〈現代〉07)

開発主義の暴走と保身 金融システムと平成経済 (日本の〈現代〉07)

キャッチアップ経済向け金融システムが、経済が成熟し市場ベースの体制になるべきときにシステムを維持しようと無理をし(そしてバブルを起こし)、バブルの後片付けを先延ばししつつ最終的には政府の赤字としてツケを回した、というテーマをベースに金融と経済を振り返る。 非常におもしろかったし、復習にもなった。


素人として不思議に感ずるのは、これだけグローバル経済なのに、為替レートの話がほとんど出てこないこと。 市場で調整され均衡状態になっているから気にしなくてもいいとうことか?。


池尾教授は90年以降の日本経済がぱっとしない理由として、林・プレスコットの仮説

1990年ごろに生じた

  • 一人当たりの労働時間の低下
  • TFP上昇率の低下

この2つが供給側のショックとして長期停滞を起こした

を紹介する。 労働時間短縮は週休2日の導入等で明確だが、TFP上昇率低下の原因として池尾教授は「生産性が高い輸出型製造業が構造調整の一環として海外に移転した」ことをあげる。 構造調整とは「円高対策」だったはず。 円高で生産性の高い産業が日本から出て行った(そしてそれに変わる新たな高生産性の産業(例えば金融)を育てられなかった)結果、TFPが低下し停滞したならば、円が安くなれば(円を安くすれば)停滞は和らぐのではないか。


でも、ロバート・フェルドマンが指摘するように、少し良くなると安心して元の木阿弥になってしまうのが今の日本かもしれない。とするならば、財政赤字はやっぱり発散へ向かう?。


== 追記 ==
日本の金融システムがキャッチアップ経済の成功ゆえに慣性で走り続けよう都市災いを引き起こしたが、企業の中でも大成功した事業が大成功ゆえに環境が変わっても慣性で走り続け、低収益・赤字を引き起こす。 似ているなあ。