東洋経済臨時増刊 デフレ完全解明

最近は経済週刊誌を買わないが、識者の見解を知りたく購入。
以下は個人的に興味を持った部分のメモ。
なお青い部分は私のたわごと。


岩田規久男 学習院大学教授
人々がデフレになるという予想をもって動くことがデフレを維持してしまう。
市場は日銀がインフレ率0%を目標にしていると思っている。日銀が量的緩和をやるといっても予想インフレ率がなかなか上がらない。米国はマネタリーベースの増加に予想インフレ率が反応しやすいが、日本は反応しにくい。
米国はインフレ、日本はデフレなので、円の購買力は持っているだけで上がる。通貨の価値は国力の反映というが、今はただデフレだから円が上がっているだけ。
日銀には70年代の石油ショックの頃のインフレのトラウマ、80年代のバブルのトラウマがある。日銀の企画局では株価や地価の上昇をとても警戒している。
中央銀行がデフレ退治を始めるとまず起こるのが株価の急騰。
量的緩和のもとで、まず、企業は自己資金で設備投資をファイナンスする。予想インフレ率が上昇すると貨幣の流通速度が上がる。そうすると、いずれ貸し出しも増える。
インフレ目標&マネタリーベース増 → 予想インフレ率増 → 予想実質金利低下 → 株価の大幅上昇 → 投資と消費の増加。円の価値の減少 → 輸出増と輸入品との競争力の強化。この2つのルートで総需要が持続的に増加しデフレ脱却ができる。
成長政策は市場に任せて競争環境を維持すること。デフレ脱却は日銀が金融政策でやること。


伊藤隆敏 東大教授
需要不足。消費が弱く投資も弱い。輸出頼みだが円高でこれも弱い。需要不足が物価の下落につながり、失業や賃金カットにつながり、更にデフレが進む。 マイルドではあるがデフレスパイラルが起きていると思う。
人口減少と高齢化が需要不足を加速。政府債務が大きすぎ財政出動には期待できない。輸出主導で回復するのを許してもらえる状況にない。
打開策はあるか? − 手遅れかも知れない。
金融政策は本来非常に効くのだが、手遅れ感で難しくなっている。 人々のインフレ期待がデフレ期待に変わり、消費や投資に対し冷却効果を持っている。
インフレはコントロールできるか? − 引き締めることはいくらでも可能だ。
デフレで物価が全体的に下がることは、一見問題ないように見えるが、(1) 実質金利上昇、(2) 税収減、(3) 政府の実質債務増 が発生する。年金の設計には下方硬直性がある。
団塊の世代が退職世代になったら消費税増税に反対する。年金受給者にとってはデフレになって給付水準が変わらないほうがよい。
金融政策は効きにくく、財政政策も出動すべきではない、今や構造改革しかない。


伊藤元重 東大教授
20年近く需要不足の状態。これが物価下落につながっている。循環的要因、マクロ的要因よりも構造的要因が大きい。
構造的要因とは、(1) 今の人口と高度成長期にできた仕組みとのミスマッチ、(2) グローバル経済のスピードについていけないこと。
金融政策にまったく責任が無いとはいえない。 今は金融政策が効かない。 必要な金融政策はやるべきだが、それだけでは解決しない。
数年内にもっと激しい揺さぶりが来ると見ている。大転換を迫られるが、国民がが絶えられないほどのひどい状態に落ち込むか、いずれかの可能性がある。(立場上はっきりとは言えないが、藤巻さんの見解に近いように見受けられる)
5年ぐらいは金融機関経由で国債の消化ができる計算だが、実際には市場はそんなに簡単なものでははいと思う。
異様な金利急騰でなくても、10年債で2.5%, 3%となるとかなり大きなショックになる。(郵貯?)


野口悠紀雄 早大教授
(教授のマクロの見解についてはスキップ)
経営者が無能だからビジネスモデルが転換できない。


池尾和人 慶大教授
人口動態の問題、90年代以降の国際環境(冷戦構造の崩壊)との不適合。
フルセット型産業構造からコストを負担しつ比較優位に特化するという転換を図る戦略性が無かった。
日本人の年齢の中央値が45歳。変わりたくない人の方が多い社会。変わることはますます難しくなる。デフレというより「衰退」と言ったほうが正確。
メインシナリオは、いきなり氷山にぶつかるのではなく、その前に国債市場が変調をきたし、それを契機に増税に進むというもの。(政治的に合意が成立する程度にゆっくり金利が上昇するという見方か?)
日本はいまだに中国や韓国と同じ土俵で競争する道を選んでいる。そうすると賃金水準も同じになっていく。(変わりたくないし、そういう競争を選んでいるんだから円を安くして賃金水準を近づければ雇用問題やデフレから開放されると思う。その上で貧乏なのがイヤならばイノベーションに励めばいいのではないか)


岩本康志 東大教授
循環的な問題と構造的問題。 前者はリーマンショック後の輸出の落ち込みで、需給ギャップはまだ相当大きい。構造的問題は世界経済のリバランスのために内需を増やす必要があること。
デフレの長期化の要因、低いインフレ率が続いたことで期待インフレ率が低下。これが金融政策の自由度を狭める。
今の日本は貨幣数量説が成立しない流動性の罠に陥っている。
潜在成長率の低下とインフレ期待の低下、どちらがより問題か?− 潜在成長率が低いこと。中立金利が下がりゼロ金利との差が確保できず、ますます物価コントロールが難しくなる。
新興国の企業にコスト競争力で負け、ハイエンド分野に追いやられ、グローバルな景気循環に脆弱になっている。
リスクテイクする態度が失われてきていることが問題だが、政策によって動かすことは難しい。


山田久 日本総合研究所
2つの大きな問題(財政の悪化、雇用の悪化)を抱える。
量的緩和でも効果がなかった、これ以上の金融緩和は通貨そのものの価値の毀損やバブルを起こす。お金が回らない理由は収益率の低下。モノが売れず安売り競争をする、コスト削減で賃金を下げる、ますます売れなくなる。人口減少で消費が減る一方で設備の除却は時間がかかるのでモノあまりになっている。金融政策では解決できない。 むしろ金融政策は問題を先送りする。
今の日本企業の問題は技術で勝って事業で負けるという点。


河野龍太郎 BNPパリバ証券
経済の老化。 人口減少で国内売上の低迷 → 企業の期待成長率の低下 → 設備投資の抑制・雇用の抑制による消費の抑制 → 総需要の低迷で需給ギャップが悪化
リフレ政策の副作用 ... 欧米のバブルの助長と輸出部門での過剰設備投資。
05〜07年の円安で国内でモノ造りすることが割安になり、このときの資源配分の歪みがいま構造調整圧力となっている。
インフレ率を上げるだけならアグレッシブに株・ETF・外貨を買えばいい。これは政府の財政政策であり中央銀行が決めるべき話ではない。公的債務が膨張しておりインフレ加速をもたらす恐れがある。(05〜07年の円安はやっと賃金・雇用に改善傾向が見え始めリスク資産価格が上昇するという明らかな効果があったと思うが、金融政策を財政政策とし債務が巨額だからダメと封印するのは主張に無理があるように感じられるなあ)
通常、デフレの問題点は名目賃金を下げられず実質賃金が上昇することだが、日本の場合、名目賃金の下方硬直性が失われ賃金調整が進んでいる。
デフレ期待が強いことではなく企業のゼロ成長期待が強いことが問題。生産性上昇ぶんが価格下落し、1%程度のデフレが定着している。


藻谷浩介 日本政策投資銀行
マクロ経済学者がいう物価が一律に下がる貨幣現象としてのデフレではない。(貨幣価値が上昇しているんだからデフレではないだろうか?)
人口減少の下で需要を増やすことは可能か? − 若い人の賃金を上げること、女性の雇用を増やすこと、外国人観光客を増やすこと。(で、どういうメカニズムで賃金上昇や雇用増をもたらすの?)


上野泰也 みずほ証券
人口動態の変化で国内の消費市場は縮小し需要は落ちる。一方、供給はなかなか減少しない。 政府の財政政策、日銀の超低金利政策が続いているため、新陳代謝が弱い。
供給を減らすか、需要を増やすか。消去法で需要を増やすしかない。具体的には観光客と移民。
供給構造を変えるにはギャップが大きすぎる。
金融政策で物価を動かすことはできなくはないが大きな弊害(悪性インフレやキャピタルフライト)をもたらす可能性が高い。経済の実態が悪いのに物価が上がるのは通貨の信用の毀損にほかならない。金融政策はゼロ金利で基本的にゴール。インフレ目標について、市場は不安定なものだ、悪性インフレになると思われたら危ない。
国と地方の債務の積みあがりのペースが速く、数年で家計の余剰資金を上回る。企業も余剰資金をいつまでの国内においておくかわからない。 機関投資家キャピタルフライトできないが、個人がキャピタルフライトし預金の流出の可能性がある。預金が減れば銀行は国債の売却を余儀なくされる。 この恐ろしいシナリオがあるので日銀が信認を落とすようなことは絶対にすべきではない。
(銀行系のサラリーマンとしての仕事をちゃんと果たしている点は立派、民間の資産選択が変化し預金が流出すれば国債を売らざるを得ないという指摘は重要、だからといって通貨価値を下げるな(デフレから脱却するな)というのは困る。)


岩田一政 元日銀副総裁
今回のデフレは前回よりも手強い。GDPギャップが前回よりも大きい。デフレと膨大な政府負債という二つの問題に直面している。前回のデフレ時の民間の債務が政府へ移し替えられより手強くなった。
昨年の円高 − 日米間の金融緩和の度合いの違いが大きかった。米国がより緩和すれば円高ドル安になる。デフレということを考えれば日本のほうが深刻なはずだ。
金融政策だけでデフレが完全に直るとは思っていない。
均衡実質金利、つまり自然利子率が市場の実質金利よりも低い場合にデフレになるわけだが、自然利子率をあげるのは金融政策では本来無理。
03〜04年の巨額為替介入が量的緩和を実施していた金融政策をバックアップし、デフレ脱出の可能性を高めたと思う。金融緩和をしながらの通貨安競争ならば、世界経済にとってもプラスに働く。
日銀がもし最適な金融政策を行うならば、より拡大的になることが必要だ。


全体の感想


マクロ系の多数意見は、流動性の罠で金融政策は手詰まり、為替レートに働きかけようというのは少数派、かといって構造改革には抵抗も多いし時間もかかる。財政破綻までに間に合いそうもないような感じ...。


為替レートがもっと円安だったならば、潜在成長率は今と同じか、それとも今よりも上だろうか? デフレはアニマルスピリットにマイナスに作用し潜在成長率を押し下げるのではないだろうか。