金融と審判の日 --- 21世紀の穏やかな恐慌を生き延びるために 

以下は下記の本を毎日少しずつ読みながらメモしたノートです。
例によって私の誤解があるかもしれません、内容は私の理解力不足で偏っているかも知れません。 投資のネタにする際には必ず原典にあたってください。

金融と審判の日~21世紀の穏やかな恐慌を生き延びるために (ウィザードブックシリーズ)

金融と審判の日~21世紀の穏やかな恐慌を生き延びるために (ウィザードブックシリーズ)

尚、青い文字は私のたわごと、太字は私が重要かなあと思う箇所です。


ジム・ロジャーズによる『はじめに』
ジムはこんなふうに書いています。

「歴史を学べ」
「現在の出来事は昔起きたし、これからもおきる」
「あなた(著者たち)と私(ジム・ロジャーズ)は同じように考えます。ということは、破綻するのも一緒だということです。」

そして更に、グリーンスパンに対し手厳しいジムが言うには
グリーンスパンは消費によって国が豊かになれるという歴史的裏づけのない狂気じみた考えを持っている。貯蓄と投資を行う国は成長し繁栄するがそれを怠る国は衰退し滅亡することは歴史が証明している。
グリーンスパン金利を不自然なほど低く下げ信用を拡大 → 90年代後半に株式市場でバブル → 今は(負債を使った)消費と住宅のバブル → はじけると家計部門を直撃するため一層深刻


1. ギルダー的時代
「一番困るのはほとんど合理的なのに、それが完全でないということである」 G.K.チェスタトン
90年代後半のバブルを振り返り、本書のテーマ「群集の非合理性とバブル」に焦点をあてます。
(省略)
情報の氾濫 → 自分で考えを見つけ出す代わりに集団的な考えを取り入れるようになって行く。 .... 情報の処理には時間と労力を要するため。


2. 進歩と完成、そして歴史の終わり
「世界はだまされたがっている」
フランシス・フクヤマの「歴史の終わり」に対してこれからも同じような失敗を繰り返す(だから歴史は終わらない)と主張。政治でもヘマをやるし経済でもバブルと恐慌をやらかすだろうと。
人間は集団になると(合理的な理由が無い場合でさえも)戦争というおろかなこと何回も繰り返してきた。
投資の場合、合理的なつもりでも流動性が問題になると破綻する。 例:LTCM
経済学のモデルとは異なり、現実の生きた投資家は獣のような物欲と強烈な防衛本能に動かされている
私の理解では、投資家の欲望と恐怖といった心理や流動性の枯渇をうまくモデル化困難なのでこういう現象はまだ新古典派の経済学に組み込まれていない。
平均値 → Fat Tailなことが発生 → また平均値に回帰する
LTCMが破綻するとNY連銀が信用を供給し、エンロン等のデタラメが発生した。皮肉なことに経済を安定化させようとする中央銀行の努力が経済の不安定性の原因となっているのかも。

投資家は間違えても市場は間違えない --- 効率的市場仮説
民主主義に到達するともう進化できない --- 「歴史の終わり」フランシス・フクヤマ
そんなことはない!。
群集が神の恵みに触れたと思い込んでしまうとバブルがドンドンふくらむ。景気後退や信用収縮の恐れがなければ人類は会社でも個人でもたいてい過剰なレバレッジに走る。
例 01年にグリーンスパン 市場の信用を増やす → 消費者金融ファニーメイ(住宅ローン)、クレジットカード


3. ジョン・ローという良い考えの起源
バブルと崩壊(恐慌)の歴史の話です。そこにはペーパーマネーが深くかかわっている。
紙幣のアイデアスコットランド人ジョン・ローがフランスで実行した。ジョン・ローは一般にはほとんど知られていませんがバブルの歴史の本には必ず登場する超有名人です。http://d.hatena.ne.jp/guerrillaichigo/20060903#p1
紙幣発行と発行のしすぎとバブルと崩壊
ブームの特徴

  • 胡散臭い登場人物、腐敗、詐欺、怪しげな事件
  • 投機騒ぎを支える通貨供給と危険なローンの増大
  • 最初の破綻をもたらすきっかけ: 不正行為、追証を用意できない大口投資家、恐れと自棄的な投売り、パニック

大衆は今や新時代が始まり誰もが富と繁栄を手に入れられると思い込んでしまう
新時代の幻想 --- 新発見と結びついている
大規模なブーム → 大バブル → 穴が開くと経済的な打撃
バブルは、普通、経済が低インフレの時に始まる。
増大する信用が消費者物価ではなく直接に資産価値の押し上げに向かう
→ 資産価格が上がれば投資家は文句を言わない
→ 通貨も信用も膨れ上がる
→ 途方もないレベルに達する
→ もののわかった投資家は我に返って脱出口を探す
→ 価格が上昇しなくなり自信が不安から恐怖へ

ハイマン・ミンスキーによれば、「ブームは将来有望な分野に資金を集め発展を促進する」効果がある。ITバブルのおかげで光ファイバが張り巡らされインターネットを安く快適に使えるようになったともいえる。

ジョン・ローのミシシッピ・バブルにこりて、近代的中央銀行で通貨を政府の管理下におくようになった(金と結び付けると金本位制
しかし、紙幣が安定すると、紙幣がもつ不安定な性質を忘れ繁栄の道具として使うようになった*1


4. 日本的になって
10年を隔てた日本市場と米国市場の類似を指摘
日本経済のレビューと景気サイクルのしくみの説明 (略)
マクロでみた場合、本来の稼ぎ以外のカネが思いがけず入ってくる(例:家計が貯蓄の取り崩しや借金で現金を手にする)と、経済的な幸福感が大きくなる ... すると ...
入ってきた金を使う → 売上と利益が増加 → 生産拡大のために投資・雇用を増やす
ただし、貯金の取り崩しや借金はいつまでも続かない。
日米の比較

日本 米国
中央銀行 4年以上かかって利下げ 10ヶ月で4.5%下げる
政府 のんびり 景気刺激策 1000億ドル

日本経済とアメリカ経済の類似点

  • 株式市場や経済状況に対して大勢の人が強烈な関心を寄せる
  • 群集の動向: 今の経済には何か特別なことがある、今までとは違う

バブル経済の終わりごろになると...

  • 企業の利益が減少し負債が返せなくなりだす
  • ローンの裏づけとなっている資産が弱体化
  • 経済全体がおかしくなる

アメリカの個人消費をささえた資金は貯蓄によるものではない。外国からの借金---余剰のドルを再びアメリカ経済に投資する気になった外国人
(著者らは日本経済を下記のように的確に描写しています
「日本の集団化された資本主義制度では誰もが現にあるような形での利権を持っているので創造的破壊の力に任せてしまう気になる者など一人もいなかったのである。....(中略)... 人々が過ちを素早く改めるのをこぞって妨げようとしていた。彼らの努力のおかげで日本は1990年1月に始まって今も続いている長期のゆっくりした景気不振にずっと耐えなくてはならなかったのである」。


5. アラン・グリーンスパンの途方もない運命
米国中央銀行制度の歴史とFRBを信頼しすぎることの逆説とグリーンスパンの金融政策について
FRBの創設 --- 金をベースにした時代からの決別を象徴
政府は問題が起こらない限りいくらでも通貨を増やせる。
歴史:通貨を増やしすぎるとその結果問題がおきる
'27年 FRB金利を下げる 3%
'29年 信用危機 バブルで金利を6%に引き上げた時点でバブルがはじけた
今:グリーンスパン
人々がグリーンスパンを絶対に正しいと見るようになることがリスク。 「いざとなったら金利を下げてくれる」と。
信用コストが安すぎ信用(つまり借金)が安易に利用される
人々が「金利を下げてくれる」と信じていると市場が織り込んでしまい、金利を下げる効果が失われる。
個人消費をめいっぱいまわして経済を動かす政策 → 不動産バブル、低貯蓄率、借金
ジョージ・ソロス 「間違った前提で動いているトレンドを見つけその逆に賭ければよい」
PIMCO ポール・マカリー 「歴史はグリーンスパンに対して厳しく、新時代のバブルを引き起こしたと...」


6. 群衆の時代
経済を両極端(バブルと恐慌)に走らせるのは群衆の集団思考
群衆

  • 個人として感じる感情を増幅する傾向
  • 強気相場の最終段階では戦争の初期段階と同じく人々はひどく大胆になり
  • 弱気相場や戦争の最終段階では人々はすべての希望を失う

伝統 --- 何世代・何回もの周期をへて少しずつ進歩
近代の啓蒙運動 --- 十分な時間と十分な情報があれば理性により必要なものにたどり着ける。 --- ただし、問題は知識を得るためには時間と労力が必要なこと、人々はこれを省略したがる
インターネットで人々が群衆としての感情に染まりやすくなった。
集団の中の人間は複雑な考えや多面的な考えを理解したり記憶したりすることができない。群衆は合理的な思考に従うのではなく原始的で単純な感情、身分かの欲望によって動かされている。
人間は群れを作る
政治: 民主主義 --- 自由が無くなる、民主主義により集団思考が増幅される 著者たちは手厳しいですね
経済: バブルと恐慌
全員が出口を目指すと ....
アメリカのベビーブーマーは高い値段で家を売って引退できるものと信じているが ....


7. 人口学の厳しい計算
「人口学は運命である」 オーギュスト・コント
人口割合の大きな年齢集団が経済や政治を動かす。歴史や日本の例をひきつつ米国の人口構成について述べる。
ヨーロッパの革命、アジアの大反乱の背景 : 硬直化した政治・経済・社会制度 + 人口増 + リソース減
人口増加の例
フランス革命ロシア革命 ともに若者世代の増加があった
現在: イスラムの人口増
'20〜'30年の人口増 → ファシスト

逆に人口が減るとどうなるか
政府が保証した退職年金と医療保険 --- 労働者の割合がへったら資金を供給できない、大衆は神話を選ぶ、ねずみ講・バブルと同様に最初の参加者はけっこう利益を得る
日本の場合:
ポール・ウォーレスによれば
「日本問題の核心は貯蓄のフローに見合うだけの投資機会が無いこと。退職に備えた巨額の貯金。出生率低下による労働人口の減少。資本を投入すべき相手となる人間の数が減るのだから投資機会が少なくなる」。
藤巻さんによれば、国内に投資機会が無いのだから貯蓄を海外への投資に流せば円安という経路で国内の需要不足が解消する、となりますね。
日本のベビーブーム '45〜'50年
ベビーブーマーが出費の激しい時期に達したときにバブルが起き、'45年の45年後に日本市場は暴落
その後、ベビーブーマーが貯金 → 市場も経済も後退

アメリカのベビーブーム '55〜'60
支出と投資がピークになるのは46歳 → 2000年が市場のピークだった
55〜59歳で株を売り退職の準備を始めると、支出を少し減らし貯金を少し増やす

  • 消費は減る
  • 株の買い手は減る

'46〜'66年生まれ 7800万人 --- 巨大な群衆 --- テレビの効果で群衆化が強い
経済は生産から消費へ移る。貯蓄をせず消費、借金。
経済がベビーブームマーに似てきた。
忍耐・倹約・貯蓄・辛抱・規律が欠ける。長期的に必要なものを与える経済ではなく、欲しいものを短時間に与える経済。アメリカ人の退職を賄えるような収益・利益を生み出せなくなった
株を売ろうとしたとたんにキャピタルゲインが消える

貯蓄がなければ実質的な資本投資はありえない
実質(実体)投資が無いとモノやサービスを生み出せない
今のアメリカは長時間労働キャピタルゲインで家計が良くなっているという錯覚をしている

長期的市場トレンドを決める一番の要因は人口
20〜39歳 消費志向
40〜59歳 株式投資
60〜 株を売る
ベビーブーマーは、70・80年代は高消費、80・90年代は中年になり株式投資ベビーブーマーが貯蓄に目覚めると景気後退となる。人口分布からみて2018年まで下落傾向が続くだろう。


8. 最後の審判の日 − アメリカのレバレッジが利かなくなるとき
人間は理性的ではあるが、いつもではなく、完全ではない。
自分では理性的だと考えていても時には感情に流される。
市場でも政治でも人はしばしば感情に駆られて愚かなことを繰り返す。巨大な人間集団がかかわるといっそう大きな狂乱がおき易い。現代のテクノロジーは大きな愚か者の集団を作り出す。
群衆の狂気の2つの特徴

  1. 群衆は物事を最も単純で未熟な形でしかとらえることができない*2
  2. 群衆の感情にはチェックが入らないので社会全体が破滅の道をたどる


9. 21世紀のアメリ
半世紀の経済的進歩 + 25年間の強気相場 => アメリカ人は事実ではないことを信じるようになった。

  • 消費によって金持ちになれる
  • 投資市場で長期保有を行った投資家が富を得る
  • 金の保証の無い紙幣が長く価値を保つ

現実: アメリカの貿易赤字 --(モノ/ドル)--> 外国人 --(ドル/株・債券)--> 外国人が資本資産に再投資
アメリカの人口の高齢化に対して、民主的な市場構造と集団化された堕落的な政府 → 変化は難しい。多数はは備えなくて退職できる・政府の援助が受けられる、と信じている。

次に何がおきるか?

  • 軍事費を減らせば政府は予算の収支を保てる、減税もできる
  • 収入の10%を貯金する → 貿易赤字を解消し負債を返済できる、たぶんドルも救える
  • 不況の時期を過ぎればアメリカ経済は国内貯蓄でやっていけるようになる

しかし、これらはおきそうも無い。人々は一般通念を簡単に捨てたりしないものだ

FRBの低金利 → 消費者が負債を増やした (20年間金利は下がり続けてきた)

アメリカの消費者の強気(借金)以上に外国人は高くアメリカ経済を評価している。流通中のドル紙幣のうち80%が海外で保有されていた。

市場では物事がたいてい平均へと回帰する、成功の後には失敗が来る。 大きな成功を収めた投資家は成功が何時までも続くと思い始めるアメリカのポストバブルの不振も日本の不況と同じようなものになると見るべきである。

不況が起きにくくなった。恐慌は消えたと考えられるようになった
不況をどうやって無くすか?

これにより投資家は安心するようになった。 群衆が安心しきると信用を安易に使い始める

古典派の考え方

  • モノ・サービスの生産が豊かさにつながる
  • そのためには貯蓄して投資しなければならない
  • 通貨を増やしても一時的に豊かになった気がするだけ

しかし、グリーンスパンはずっと通貨を増やし続けた。

群集が信じる嘘

  • 株は常に値上がりする
  • 個人消費だけで経済はうまくやっていける
  • 信用があれば貯蓄は無用
  • FRBが長期間にわたり経済をコントロールできる
  • 経済は機械的に動き、統計によって理解できる
  • 外国人はドルを受け取る
  • 歴史の終わり

現実の蓄えが減っているときに中央銀行が信用の供給を増やしたら何がおきるのか?
信用(借り入れ)でリスク資産が買われ価格が上昇する → 人々は自分の金が増えたと思い込む(マイホームの時価・株価(資産効果)) → 金を使う → 消費が伸びる → 企業は需要に応じようと投資をする → 好景気と考え資本的資産(リスク資産)に高値をつける
問題は「永遠には続かない」こと
厄介なのは永遠と勘違いされるほど、長く続くこと。 長く続くほど最後の破綻は大きくなる

アメリカ人は自分の持つ富の限度以上の生活を送ってきた。 個人もB/Sを無視し、P/L重視になった。
ベビーブーマーは退職後の資金を気にし始め貯蓄を始めた。貯蓄率の上昇。レバレッジをはずし始める。

地政学の世界における大帝国は経済の世界におけるバブルのようなものだ。はじめは魅力的だが最後は大惨事となる。

アメリカは紙幣を印刷し、外国はモノをつくった。
外国人の気持ちが変わったらどうなるか? --- アメリカ人の分不相応の暮らし、財政赤字、帝国には大量の資金と物資が必要。

貨幣が基本的に必要とする性質 --- それが貴重だということ。そのためには供給に限りがなくてはならない、増やしすぎてはいけない。


10. モラルハザード
筆者たちが見るところ、株は良い投資ではない。その理由は、安全で有利な投資先はたいてい他の連中が目をつけていないところにある。 では、どうやって見つけるか?
「べきだ」のアプローチ
未来に起きることを推論するのではなく、起きるべきことを見つけだす。
市場もたいていそんなふうに動いている。
理性的な人間は起きるべきことが起きると予想する。安く買い高く売る。そしてあまり心配しない。
たいていの人は普通「べきだ」のいうことを素直に聞かない。

アメリカの大衆投資化はドルの見かけの強さにだまされている。外国人はそれに輪をかけてお人よしだった。外国人はドルでアメリカ株や不動産を買った。 外国人は、ドルを手放し始めるとドルが下落し自分の資産が目減りする。

中央銀行は紙幣を発行しすぎてしまう → 大衆投資家をモラルハザードに誘い込む
モラルハザード: 貯金する必要が無くなり諸費、借金 --- 何時までも続かない

'70年に金を買い(17倍になった)、'80年に日本株を買い(5.5倍になった)、'90年に米株を買い(4.3倍になった)、'00年には金を買うべき。
これができればほんの数回の取引でレバレッジをかけずに30年間で約400倍という驚異的パフォーマンス!。

私達の知っている世界は終わりに近づきつつある。 ここ30年間親しんできた世界、ドル本位制の時期は終わろうとしている。

=== 参考 ===
amazon:ハイマン・ミンスキー
amazon:ポール・ウォーレス


以上を眺めると、ジム・ロジャーズの今の考えの基本は古典派的視点でモノ・サービスを豊かに供給し続けられる経済を重視、と言えるようです。


私なりにまとめると

  • ペーパーマネーの発明でマネーサプライを増やすことが容易となり経済を刺激できるようになった。
  • ついついペーパーマネーを発行しすぎる結果、バブルが成長し崩壊する。歴史的にはこれに懲りて金に連動させたが、現在は中央銀行が節度を保つという前提でペーパーマネーを利用している。
  • 中央銀行はインフレを押さえ込むことに成功し不況をもコントロールできると人々が信じることで、人々が安易に信用(借金)を利用することでバブルが発生し、バブル崩壊は信用縮小の不況・恐慌になる。
  • 人々は集団になると合理的な思考ができなくなる。群衆の集団思考がバブルと恐慌の原因。現在は集団思考が発生しやすい。
  • 人口の増加・減少は経済に大きな影響を与える。人口の多い世代集団が一方向動くととりわけ大きく影響する。

*1:景気を刺激するために紙幣を多く発生すること

*2:真実は限りなく複雑 → 群集の考えることはほとんど全ての場合嘘に近い