日経・経済図書文化賞 記念シンポ

11月19日の日経より私の注目箇所のメモ、注:青文字は私のたわごと


討論・日本企業の進化と挑戦
日本的経営 − どう評価
今井 日本企業の強さは、製造現場の熟練を支える長期的な人材育成にあった。
伊丹 人を大事にする経営をすれば、現場のコミュニケーションが促進され、情報の蓄積が失われずにすむ。 企業の長期的教育投資が意味をもつ
失われた15年で企業による長期的教育投資はかなり失われたのでは?、次の時代には企業が長期的教育投資をするか、それとも個人がやるか?
香西 日本的経営は、日本が先進国に追いつく過程では非常にうまく機能した。 為替で円が安く、賃金や物価も低い中で技術力が向上すれば、競争優位に立つ。 しかし、物価や賃金が上昇すれば競争力を失う。
90年代停滞 − その原因
今井 長期的な人材育成の欠点がでたからだ。
伊丹 市場経済の原理に人本主義による企業原理を重ねる日本企業の仕組みは大きなショックに弱い。「米国と肩を並べてアタマなし」という川柳を聞いたほどで、経営者も十分育たなかった。
The World is Flatの効果とかWebの進化とか大きなショックが来ると、またやられちゃうのかなあ。
川柳に座布団5枚!
今井 半導体を「産業のコメ」とみなす日本に対し、米国は半導体を核にシステムを構築する知的IT産業にシフトさせようと全力を挙げた。
モノにこだわった日本と、半導体は台湾勢に任せて価値を生み出すのは知的な部分と見抜いた米国。 昔からそうだが、なぜ日本ではモノにしか価値をつけない、見出せないのだろうか。
香西 確かに半導体は虎の子の航空母艦四隻を失ったミッドウエー海戦のようだった。
今井 インターネット上で「パラダイス鎖国」という言葉がはやっている。国内で結構幸せだから海外に出ようとしないという意味だ。
伊丹 むしろ「ガパゴス鎖国」。 閉じられた環境で生物が特殊な進化を遂げたガラパゴス諸島のように、日本はIT産業を中心に特殊な道をたどりつつある。
80年代には米国企業は米国市場が大きいがゆえに海外市場にでようとしない、といわれていた。
新たな経営像 − 方向性は
香西 会社は誰のものか。少なくとも、商法では株主が企業の持ち主であるというルールがある。 日本も一度、ゲームのルールを純化し、忠実に従うべきではないか。 それでダメなら別のルールを作ればいい。
伊丹 おカネを出した人が全ての最終的な権力を握るという制度でよいのか。 カネは暴力装置にならないか。
香西 カネは政治の暴力から企業を解放するためのもの。 カネの暴力化には、市場の力で対応するのが正しい。
政治の暴力から企業を解放するという視点になるほど! 奥が深い。 マクロ経済学の視点と経営学の視点の違いが見解に反映しているようです。


討論・日本経済の成長と課題
高度成長 − なぜ実現
猪木 「戦争の遺産」 米国という最先端市場と向き合うことを迫られ、軽工業から重化学工業への転換につながった。 55年体制で政権が安定した。
香西 1ドル360円で国内の生産コストが低いために海外で高い競争力が発揮できた。 こうした割安な国内価格は経済発展につれて修正されていく。逆に近年の日本のデフレには、割高になった国内物価が是正される過程だったという一面がある。
物価で是正するよりも為替で是正したほうが痛みは小さかったのに...
大竹 日本は貿易は自由化したが、金融市場は自由化しなかった。 国全体の資金配分に政府が介入したことで豊富な資金をいろいろなところに配分できた。 ただそれで所得は伸びたが、消費を犠牲にして投資しただけの成果が本当にあったか疑問が残る。
バブル・その崩壊 − 背景は
大竹 円高不況をにらんで実施された金融緩和策がブラックマンデーで引き締めに転換できずバブルが発生した。 設備、債務、雇用の三つの過剰から90年代不況が長期化した。これが一般的な議論だが、人口動態が日本経済に大きく影響した。 80年代は人口ボーナスが発生、将来所得が増加するとの期待があった。 逆に90年代は高齢者人口比率上昇の影響が高まりこれが経済成長に負担になる「人口オーナス(重荷)」に転換した。
今後の展望 − 国家と市場
香西 グローバル化が進んだのは、冷戦終了とITの影響が大きい。 IT革命によるイノベーション発展途上国がITを学ぶだけで容易に先進国に追いつけるチャンスを得た。 米国や途上国はITという新しい産業に力を注ぎ高成長した。 その結果、ものをつくる古い産業の競争力の意義がうすれ、ものづくりに強かった日本やEU諸国は低成長にとどまった。
大竹 格差拡大はグローバル化による高学歴層への労働需要拡大に対し、その人数が増えていないことが一因だ。 教育が重要になるが、高齢者の政治力が高まり、医療・年金など高齢者支出が優先されてしまう。 若い人に負担を押し付けると生産性低下という形で跳ね返ってくる。
若者諸君、経済学を勉強して投票に行け!。
香西 経済統合、国家のブロック化が進むだろう。 そうなると、日本の自負するものづくりより金融の役割が大きくなる。


香西さんの発言にポジショントークを山盛りにトッピングすると藤巻さんの発言になりそうです。 香西さんの見解は経済学の教科書どおりですから、藤巻さんの長期の分析も教科書ベースと言えるかも。